Go for it! #24 丸京商店(まるきょうしょうてん)店主・長塚歩実(ながつかあゆみ)さん

 高島市安曇川町の住宅の一角。明るく開放的な白いウッドデッキと長居したくなる優しい雰囲気の店先には可愛らしいゾウの「丸京商店」の吊り下げ看板。

 


地元食材と本場の調味料を使ったアジアごはんと、おやつのテイクアウト専門店「丸京商店」(安曇川町青柳)の店主・長塚歩実さんを訪ねた。

 

 「おなかとこころが満たされ、地球にやさしいお店でありたい」をコンセプトに2022年にオープンした店は、使う材料はできるだけ体に優しいものを取り入れ、アジアンフードが好きな方や育児中のママが子どもと楽しめるおやつのお店として親しまれている。


取材した週はタコライス(¥850)。全ての具材をかき混ぜていただくスタイルで楽しむ。五分づきご飯は有機コシヒカリを使用。自家製ミートは芳醇なスパイス感をしっかりと楽しめて食欲増。具材の味つけと配分のバランスの良さにセンスを感じる。


信楽焼の土鍋を炊飯器代わりに。少しずつ調理家電を減らしているそう。「美味しいのが食べたい。それに尽きるんです。」と歩実さん。竈やおくどさんといったかつて日本の台所にあったものにも、いつか。そのちょっとした暮らしの手間を、日常でさりげなくできるようになっていきたい、と話す。

 


 愛知県出身の夫・哲(さとし)さんと大津市出身の歩実さん夫妻が2015年に移住したきっかけは半年間のアジア放浪旅。


 「帰国後にしたいことを話しているうちに地方移住が良いねと。ちょうど高島を紹介する番組を見て、担当課に連絡したのがきっかけでした。」

 

帰国した足で向かった高島。

強い追い風が吹いて二人が移住した2年後、哲さんが有機栽培の米農家に転職。


当時、第一子を出産した歩実さん。家計の足しにと働き始めたが育児との両立は想像以上に厳しく退職。日中に一人で小さな命を預かるというプレッシャーが彼女に重くのしかかった。 


 ある日、気晴らしにとお弁当を持って夫の働く農園へ訪ねたところ、オーナーから〈ここでお食べ〉と声をかけてもらい、農園へ通うように。


 「次第にお手伝いするようになって。娘をおぶって野菜の苗付けしたり販売補助をしたり。そこに居ると、自分以外の目がある安心感や、色んな人がいる中に自分たちも居て良いことがとてもありがたかったです。」

 


 2023年。哲さんは農法について学びを深めたいと独立。無農薬・無肥料・不耕起の自然栽培の「長塚自然農園」を始め、歩実さんは合間を縫って手伝っている。

夫の哲さんが参考にしている「自然農・栽培の手引き」(鏡山悦子著)。畑では固定種をメインに野菜作りをしている。ナス、万願寺、トマト、キュウリや豆類を育てておられるそう。
「できるだけ種を継いでいきたいので自分で種を取ってまた蒔いています。」と歩実さん。次の年には土地に馴染んでいくようすを感じるという。収穫間近のソラマメは自家製豆板醤に。今年は滋賀旭の米作りも始めるそう 。



 振り返るとあの農園での日々が入り口で、彼女のターニングポイントにオーナーの何気ない言葉かけがあったという。


 「ある時はインディカ米と掛け合わせた香り米の〈プリンセスサリー〉に合うものを訊ねられてカレーを試食してもったところ好評で。ある時はオーナーが市役所でお弁当を販売していたと聞き、それから私も販売に行った時期も。あれが丸京の始まりでした。」

 


 小学校の文集には自給自足がしたいと書いていたし、海外で自給自足をする日本人をテレビで見ると心揺さぶられ強く憧れていた。それと同時に〈飲食店をしたい〉という夢もあった。


おばあちゃん子だった歩実さんは、小学校から帰るとよく祖母と畑で過ごしていたという。

 


草や土のにおい。祖母との他愛無い会話。成長と共にそんな日々を忘れていた時期もあったけれど。

 

 「調理学校を卒業後、京都の飲食店に勤務しましたが、私には都会過ぎて合わなかった。畑までの道のりを歩いている方が楽しいなって。」


 

軽い足取りで畑へ向かう彼女の足元には、何気なくて愛おしい時間が広がっている。

ピーピー豆と呼ばれた草笛のひとつカラスノエンドウは実は土壌改良してくれる春の野草でもある。 




 「インドへ行ったら世界観が変わると言われたけど、変化はなくて。日本の美しさを再発見してもっと大事にしたいと思うように。高島に来てからの日々は今まで以上に充実しています。」


 店は4月で丸2年。あの年にオープンできたのは隣人のサポートがあったからという。


 「手が足りない時に、孫のように面倒を見てくれて。同じことができなくてもそっと助け舟になるお店でありたい。」


乳幼児を連れて出かける事が億劫に感じていた経験から、同じ思いを抱えるママのハードルが下がればと。


 

 畑の一角には夫妻が置いたハンモックと滑り台。

遊ぶ我が子の声と気配を近くに畑仕事をする。


ここに他の子どもたちも加わって遊ぶ景色も素敵だなと。


これからを想うと枝葉が広がるようにやりたいことが増えていく。


いつか、自分たちのゲストハウスで味噌作りの会やまち歩きを堪能できる拠点づくりもしたい。


それなら二人では手が足りないどころか、今生じゃ終わらないかもしれない。けれど焦らずひとつずつ、丁寧に向き合いたいね。と夫妻は笑った。




 田畑に通じる道。風で揺れるたんぽぽとシロツメグサの群生を歩く。畑は強かに育とうとする草と作物で賑やかで。


 

 「見渡すと高島は恵みだらけ。春にお花見弁当を出したところ好評で。自分たちの野菜や、地元の旬を使った旬菜弁当の販売もしていきたいです。」


 

ものごとに向き合う姿勢に無理がない。そんな彼女が作るお弁当は、箸を進めるほどにすっと旨味が染み入った。

(取材・撮影/川島沙織)


撮影のお手伝いしてくれた次女ちゃん。



丸京商店

高島市安曇川町青柳835-16

金・土 11:00-15:00

テイクアウトのみ


□詳細は丸京商店インスタグラムより

https://www.instagram.com/marukyo_syouten/


□長塚自然農園インスタグラム

https://www.instagram.com/nagatsuka_farm/

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