たかしまを彩る人 color.25 丸八百貨店(まるはちひゃっかてん) 店主・藤原穂波(ふじわらほなみ)さん
「朽木に来て9年。これ以上、ここから人を減らしたくなくて。」
株式会社ENON代表取締役で丸八百貨店(朽木市場)の店主・藤原穂波さんは話す。
店は静かな街並みの一角にある。かつてこの一帯は城下町でもあったため街道にはその名残と鯖街道の宿場町として栄えた風情を残している。
朽木市場は、宿場町の役割を果たしながら朽木氏の城を拡張して築いた陣屋町でもあった。
とりわけ、道を屈折させて地域の防御力を上げる「鍵曲(かいまがり)」は随所に見られる。
丸八百貨店もその鍵曲上の角地に建てられていて、店へ通じる道に入ると、レトロな3階建ての木造建築が目に飛び込んでくる。
屋根には、七福神のひとり・大黒天さまがひょっこり。五穀豊穣、縁結びの神さまとして知られている。
朽木のシンボルのひとつとして、地域に愛されてきた丸八百貨店。昭和8年に個人商店として建てられて以来、平成初期まで営業。
その後は地元団体が地域の特産品の販売所と憩いの場として20年にわたり管理・運営してきたが、管理者の高齢化に伴い閉館を迎えた。
〈地域の憩いの場を無くすことはできない〉と、穂波さんは一念発起し指定管理事業者として2023年に営業スタート。
店では喫茶と特産品販売のほか、イベントスペースとしても開放していて地域住民だけではなく、朽木への関係人口を増やすための活動も積極的に行っている。
丸八百貨店の店内。
物販コーナー。地元の作家さんや生産者の商品が並ぶ。
以前は看護師の仕事をしていた穂波さん。異業種の仕事は手探りで、店を軌道に乗せる難しさを痛感する日々だった。
現在は穂波さんが調理担当、長女がホールに加わって、家族で協力しながら店を切り盛りしている。
「観光客からの質問には、居合わせた常連のおばあちゃんにお願いして、代わりに説明してくれることもよくある風景です。」と穂波さん。
そんなアットホームさも手伝って、居心地が良いお店として賑わいを見せている。
こちらは3階。街道を見渡せる。この部屋は見学のみOK。
限定10食の「丸八特製発酵ランチ」(¥1,500・税込)は土日祝のみ。
塩麹漬けの鶏の唐揚げ、甘酒入りのぶりの照り焼き、甘麹入りのだしまき、朽木名物の栃餅の揚げ出し、サバの糠漬け「へしこ」など文字通り発酵づくしとなっている。コシヒカリは朽木源流で作られたもの。どれも箸が進んでペロリといただけた。
丸八特製発酵ランチのおしながき
発酵食品にも力をいれる穂波さん。ゆずを発酵させて作った酵素シロップを炭酸で割った「ゆずソーダ」は爽やかで美味。焼酎で割って飲むのもおすすめだそう。
近頃では〈こんなイベントがしたい!〉の声に応えたりと店内が賑わう様子に目を細めた。
ニーズが舞い込めば、それが今自分がやるべき事と受け止め向き合ったり、時には得意な人にも委ねながら積み重ねる。
それはまるで丸八百貨店が再び呼吸をし始めたかのようだった。
それに呼応するように人の流れも生まれて物事が動き出している感覚だった。
「テレビ局や雑誌社から、地域に関する問い合わせ対応や縁つなぎの役割もいただいて。お陰様で、訪ねてくださる方が増えてきて、ここに居ながら活動をするスタイルになってきました。是非みなさん、お越しください。」と穂波さん。
ウィットに富んだ会話と朗らかな人柄の穂波さん。時折、底深いパワフルさを垣間みる。
そんな彼女の原動力は、移り住んだ雲洞谷(うとだに)での暮らしにある。
大阪出身の穂波さんは、結婚後は京都で生活していたが、よりのびのびとした環境で育児をしようと2016年に移住を決意。
「当時、相談していた学校の校長先生は高島市出身で。環境を変えることや、児童数の少ない学校選びの助言をしてくれたことがきっかけでした。」
〈まずは子どもを育てるために集落に馴染もう。〉と、越してきた経緯を地域の人にありのまま伝え、温かく見守られて、地域に溶け込んでいくことができたと話す。
なにより、彼女自身の心の在り方にも変化をもたらし、肩の力を抜いて子どもたちに接することができるようになったことも大きかったという。
行き詰まった当時には到底イメージできなかった日々。今、ここでの暮らしに縁と恩を感じない日はない。
雲洞谷地域は村としての存続が厳しくなりつつある過疎地域。移住して以来、穂波さんの子どもたちが最後の子ども世代となっている状況だという。
このままではいけないと地域の有志で立ち上がり、2018年に〈まるくもくらぶ〉を結成。
炭窯の復活と炭の販売を皮切りに、とち餅のネット販売、休耕田を活用してできたお米の販売など、地域資源を生かしながら里山の保全や伝統を守る活動をしている。
また、業務煩雑化と担い手不足のループに陥りがちな地域自治体に庶務を新設し、自治体運営の円滑化にも携わった。
この地域課題は日本の問題を映し出している、と。
まるくもくらぶの活動を通して色濃く見えてきたのは、雲洞谷モデルとして地方創生を試みるというビジョン。
「だって、ここは子育てするには本当に良いところ。子どもの表情が全然違うんです。」
朽木で働ける場所があれば山仕事や農業に興味がある若い世代が安心して移住できるはず。
〈丸八百貨店で、朽木の伝統食品や加工食品の製造と販売を足掛かりに、雇用を生み出していく。〉そんな大きな夢を抱きながら丸八百貨店を始めたんです。と穂波さんは語る。
ある夜。店では〈まさかこの歳で、丸八で飲める日が来るとは〉としみじみ喜ぶおばあちゃん達。そこに若い世代が新年会になだれ込む。
世代や業種を超え会話のバトンパスが起こる丸い空気。地元以外の人も巻き込んだ化学反応は、新たな何かができそうな予感。
「最近では、店が忙しい時は息子がレジの手伝いしてくれたり。」と、かつての自分たちに声をかけたくなるような子ども達の成長ぶりに顔をほころばせる。
「香川にある親の生家は既になくて。風で運ばれる潮や水田、土の匂い。夏休みに過ごした頃のことが、大人になってふと鮮明に思い出すことがありました。」
ここに移り住むまでは、子ども達が帰る田舎はないと諦めていた。
「これまで住んだ場所はどこかしっくりこなくて。田舎暮らしが好きで来たのではなかったけれど、今や私たち夫婦の終の棲家は雲洞谷です。」
夜になればフクロウや鹿の声。日々の暮らしに山の生き物たちの息遣いや四季を感じながら。
取材日は定休日だったが取材中に何度もカラン、とドアベルが鳴った。「すみません、今日はあいにく定休日で。」と説明する穂波さんに、来訪者はそのまま気さくに話をするシーンが繰り返される。いずれも近隣からではないことが伺える訪問者の熱量と穂波さんの人柄と。店からは心地よさが醸し出されている。
鯖街道で知られ、高島の玄関口として朽木が要衝だったことはすっかり今は昔となってしまったけれど、人のつながる拠点として未来に繋げていけたら、と。
現在、古民家「丸喜(まるよし)」の営業に向けても動いている穂波さん。
炭作りや田舎体験したい人が泊まったり、大学の研究員やゼミ、子どものレクレーションなどにも貸し切りで利用できるように準備を進めている。
本当にやることが
いっぱいよね。
さぁ、さて。
この地から、
地域創生への
最終目的に向かって
少しずつ。
(取材・撮影/川島沙織)
丸八百貨店
高島市朽木市場838
火曜日・年末年始休業
営業時間 10時~18時
ランチ 11時~14時
カフェ 10時~17時
0740-38-3711
□丸八百貨店インスタグラム
https://www.instagram.com/maruhachi_kutsuki/
https://maruhachi-kutsuki.takashima-shiga.net/
株式会社ENON
高島市朽木雲洞谷935番地
代表取締役 藤原穂波
h.fujiwara★enon-takashima.com (★を@に変更してください)
まるくもくらぶ
雲洞谷(うとだに)の大自然と伝統を守る活動のブログ
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