たかしまを彩る人 color.24 MADEiTA(メディタ)代表 井上祥子さん
「今年の春から観光案内所として拠点にしている〈ホタル屋〉の整備に力を入れています。案内コンテンツとして、地域資源を利用したワークショップをしたり、コーヒーを飲みながら清水山城のパネルなどの展示物も楽しんでもらえたら。」
そう話すのは、高島で育ち、子育てやまちづくりに関わる仕事の経験から、高島の魅力を発信している「MADEiTA(メディタ)」代表・井上祥子さん(新旭町旭)。
屋号は、〈made〉と〈高島のTA〉の間に〈i(愛・私)〉があるという意味が込められていて、その営業拠点となる「ホタル屋」は、JR湖西線「新旭駅」から東へ、琵琶湖に向かう幹線道路から少し入ったところにある。
かつて、市内の森林所有者から木材生産者、工務店、建具店など、森づくりから家づくりまでに関わる事業者による「高島の木の家づくりネットワーク」の見学先として使われた場所。
店内は木の端材で作ったお洒落なアイテムが随所に置かれ、木の温もりを感じる心地よい空間となっている。
木材をキャラクター化して親しみやすくする工夫も
それぞれの木材の音の違いが楽しめる木琴(※木琴作りWSは現在行っていません)
掲示している高島市のマップには、高島の絶景を知りつくした写真家の協力のもと、撮影スポットの位置も書き込まれている。
また、沖縄好きが高じて以前に祥子さんが営んでいた沖縄そば「美ら湖(ちゅらうみ)」の名残りも。現在は、ご朱印のお城版・御城印「清水山城」の販売とシルクスクリーン印刷体験、高島ちぢみを使った畳づくりのワークショップを中心に活動をしている。
山城を連想させる力強くて荘厳な筆致の清水山城の御城印(1枚300円)。色のイメージと歴史をなぞらえて色に独自の名前がつけられているものもあり、そのユニークさに思わず顔が綻ぶ人も。ホタル屋では、シルクスクリーン体験(1枚700円・所要時間10分程度)も楽しめる。清水山城ゆかりの西佐々木の家紋と、『清水山城』の書、それぞれの色を自由に組み合わせて自分だけの『オリジナル御城印』づくりができる。
通気性の良さで夏に活躍する高島地域伝統の生地「高島ちぢみ」を使って畳の縁(へり)をあしらうWS。季節ものなど、小物を飾るのに良さそう。
これらの活動のほか、祥子さんは「水辺ガイドの会」に所属。まちあるきが好きな参加者と高島市内を散策し、その土地の歴史や当時の人々の暮らし、息遣いを辿るツアーにも携わる。
「高島の魅力は自然遊びのイメージが強いですが、雨の日でも楽しめる体験や民間ならではの柔軟な提案をしていきたいです。」
かつて従事した仕事では、高島を盛り立てたいと活動している人=移住者というイメージが定着しているように感じることが多々あったという。
長年、地元の様々な事業者がそれぞれの持ち場で高島をより良くしていこうと頑張っていることを、これまでの活動を通じて知った祥子さん。
「高島の魅力は、その地に暮らす〈人々〉の織り成すものと考えています。自由な発信や提案ができる場として、人と地域資源を繋いで高島の良さを伝えていきたいです。」
伝える立場となった以上、自分が良いと思うことの根拠を関連団体に確認するフォーマルさも大切にしながら。
当初は副業という形で、3年かけて構想を練りながら事業をしようと考え、沖縄そば屋を皮切りに、木育インストラクターやカラーコーディネーターを取得。
以前従事していた職場でのワークショップ「檜の入浴木」「メモスタンド」「水のつみき」など。市内外の親子連れなどでにぎわった。
その後、MADEiTAの事業に専念するべく、まちづくり事業の職場を退社。
自ら退路を断ち2022年にホタル屋をオープンするも、翌年に理想と現実の狭間で停滞を迎える。
〈ならば、これを機に気持ちを入れ替えよう〉と決意した祥子さんは、地域資源というフィルターを外し、自分の〈好き〉や〈楽しい〉と思えることだけに集中したり、地元の友達や、これまで関わらなかった新たな人たちと対話を重ねた。
自身の気持ちと整合性のある行動をとるうちに、〈高島のために〉と必要以上に気負っていたことや、中庸的なスタンスでいたはずの軸からズレていたことなど、気づきをもたらした。
「そんな折、私の活動を全く知らない人と話をする機会がありました。世間話から『今は持っていた野望が…』と口ごもらせたところ、『その野望とやらを聞かせてよ』と、関心を寄せてくれて、私はこんなことがやりたいと熱く語りました。」
それは、完璧主義の纏いを脱ぎ、後ろ盾もないひとりの人間になってから、自身の想いと考えを受け止めてもらえた出来事。
自分は何をしたくて、できるのか。手放して残ったものは、自分が本当に大切に思っている事柄だから―。
「沖縄のエッセンスから離れ、お店の名前をホタル屋にしたのは、以前にコーティネーターを勤めた針江地区の川端(かばた)見学会で出会った大学生が、私をホタルのようだと表現してくれたのがきっかけです。」
幼虫期に蓄えた栄養を使いながら
光を放つホタル。
日が落ちて、仄暗い川辺に漂い、
思い思いのリズムで灯り出す。
暗闇を劈く(つんざく)ような強い光こそが周囲を引きつけ、
集団を牽引すると思われがちだが、ホタルの場合はそうではない。
発光するリズムが揃うことで、
遠くの仲間へ知らせるホタルの同期現象。
これは、自分の少し離れたところで浮遊する仲間の様子を見ることができる個体によって、引き起こされる説がある。
まるでそれは、市内に点在する高島の魅力を繋げていこうとするあなたのようだと。
「たとえ応援がなくても、やりたいことを自身が納得できるように生きていくのはとても大事。それを自分の子どもたちや、人に云いたくて、私はこんなことをしているのかもしれないです。」と祥子さん。
やりたいことが貫けるか。それは、つまるところ自分と繋がるかなのだ、と。
大学生と中学生の2人の息子がいる祥子さんは、幼い頃から人との関りで、自身の想いを意図しない形で捉えられたり理解されないジレンマを抱え、それが長年のコンプレックスだった。
けれども、長男を出産した日から、自分に居場所ができ自分の人生が始まったと振り返る。
「これまでに自身が感じたことを育児に活かしたり、私自身も子から学び、育てられていくうちに、世界の見え方が変化していきました。時には鬼扱いされるほど、子には懇々と伝えることもありますが。」と、あどけなく笑った。
祥子さんの旅の楽しみ方のひとつが、現地の人と話すこと。ちょっとしたふれあいや、ひとときが旅の思い出に彩りを添えているという。
「観光事業はまだまだ先輩方のお知恵を借りたり、助けてもらう側ですが、それだけではなく、私と同じような人や〈ここで話すと元気が出るな。〉という方とも、この場所で関われたら良いなと思います。」
今日は人に会いたくないけど会いたい、とか。顔を洗ってないけど泣きたい、とか。
気持ちとやりたいことがちぐはぐな日でも、ひとつの居場所で在りたい。自分なりの灯し方で、訪れる人を迎え入れたい。
「様々なジャンルの人と関わりながら、ご縁を繋げていきたい。高島の木の端材のワークショップなら、ホタル屋だけでなく、小学校でしても楽しそう。ちょうど今、その企画を練っているところです。」と、繋がり始めた楽しい予感に祥子さんは声を弾ませた。
沖縄そばは、体制が整えば再開を考えているとのこと。訪れる人との繋げ役として大切なコンテンツの一つだった。そしてこれからもそう。またいただける日を楽しみにしている。
(取材・撮影/川島沙織)
ホタル屋 高島ちぢみ ミニ畳づくり ワークショップ
料金: ひとり 5,500円(税込)
所要時間 : 約90分
体験時間:①10:00~11:30 ②14:00~15:30
対象年齢:保護者同伴であれば年齢不問
予約:DMでも受付中。お気軽にお問い合わせください。
※規定人員に満たない場合は中止あり
※キャンセルポリシーあり
詳細は
「シガリズム 高島ちぢみ体験」
https://www.biwako-visitors.jp/shigarhythm-activity/detail/?id=740023
人×資源でつなぐ地域資源のひみつ基地
ホタル屋 by MADEiTA(メディタ)
高島市新旭町旭809-6
体験日:土日(臨時休業あり)
hotaruya1022*gmail.com
(*を@に変えてください)
詳細はInstagramアカウント(@___hotaruya)
もしくは
祥子さん制作の「キセカエ旅のしおり」高島の旅をより身近に楽しみ、とっておきのものになるようにと工夫がいっぱい。2024年4月現在、ホタル屋と市内の一部の宿に設置中(くつき源流のお宿 古民家COCCO小入谷、新旭にあるハリエハウス)。
高島市内の絶景を知り尽くす知人の撮影協力を得てできた「どこ行こカード」付き。※写真は収録されたカードのごく一部
「どこ行こカード」を選び、好きな写真を挟んで実際に行ってみようというページも。とても良くできた旅のしおりとなっている。
インバウンド向けのフィッシングガイドのフライヤー。こちらのフライヤーの設置は市内宿泊施設にも取り扱い可能だそうなので、希望する方は一度問い合わせを。
0コメント