たかしまを彩る人 color.20 KALAVINKA(カラヴィンカ)リコーダーケース作家 Maiさん
吹く。という技術。
呼吸と指づかいで繋ぎ合わせる高い音、低い音。
場が澄み渡るような音色をもち、豊かな表現を楽しむことができるリコーダー。
楽器としての歴史も古く、ルネサンス・バロック時代から親しまれたという。
「リコーダーは、バロック時代に小鳥に歌を教えるため、使われたことに由来しているそうです。」そう語るのは、リコーダーケースを制作しているKALAVINKA(カラヴィンカ)・Maiさん(高島市新旭町)。
リコーダーというと「たて笛」と呼ばれた、あのプラスチック製の管楽器を思い浮かべる方も多いだろう。
今では広い世代に馴染み深い楽器となっているリコーダーは、昭和34年から小学生の教材として使用される様になった。導入当初、「笛」は竹製の横笛の認識が強かったため、リコーダーを縦笛と呼んだのが始まりだという。
小3の授業でリコーダーを習い始めた頃は、うまく吹けず苦手だったというMaiさん。
「授業の日は気が重くなっていたのですが、家族が一緒に練習に付き合ってくれて。吹けるようになると、どんどん楽しくなって。それからは家で過ごしているときの気分転換に、よく吹いていました。」と振り返る。
やがて進学、就職とリコーダーを吹く機会もなくなっていったけれど、いつかまたやりたいと、想いは消えることなく。
結婚、3児の育児、大好きな保育士の仕事にと日々を目まぐるしく過ごしていたある日。
Maiさんは体調を崩し、入院・手術をしたことをきっかけにこれまでのペースを見直すことに。
大好きな仕事を一旦、手放してからの日々は、体の回復とは裏腹に気持ちは沈みがちに。
折しも、新型コロナの流行によって、様々な活動が自粛状態で世の中が停滞しているようなときのことだった。
〈こんな今だからできることをしよう。〉
そう彼女に力を分けてくれたのは、かつてよく手にしたリコーダーだった。
<再開するならひとりではなく、だれかと一緒に演奏を楽しみたい。>
そんな想いが熱を帯びていった。
「自粛期間中に、さまざまな分野のオンラインレッスンが増えていくなか、リコーダーのレッスンをしてくださる方を探していて。フランス在住の先生に辿り着きました。」
もともとクラッシック音楽は好きだったが、プロのリコーダー奏者の野崎剛右(こうすけ)氏によるレッスンを受けるようになると、リコーダー全盛期の象徴・バロック音楽を課題曲として触れるように。
すると、その曲の背景や魅力を知って、ますます楽しさが増がしていったという。
CDは仏古楽アンサンブル 「ラ・レヴーズ」で奏者を務めた野崎 剛右氏が参加の『鳥たちのコンサート & 絶滅危惧種の謝肉祭(邦題)』。自然界の音や鳥のさえずりは、時の音楽家によってその再現が挑まれ続けている。この作品はまるで鳥類図鑑を開いているような、森の中で鳥のさえずりを聞いているような描写を楽しめるようになっている。バロック音楽に馴染みあるなしに関わらず楽しめる作品だ。
「以前は保育の仕事に携わっていたので、乳幼児の子どもたちにも、クラシックの演奏の楽しさを気軽に感じられる場があればと思います。いつか、親子で楽しめるおおらかな会のサポートをしたいと考えています。」と話す。
子どもの頃から家で過ごしたり手芸などのモノづくりが好きで、子の成長の節目には布小物や服なども作ったりしていたMaiさん。
「以前、先生からリコーダーを購入した際にケースがあればと思い立ち、自作しました。それを先生に見せたところ、ケースの安全性などを褒めて頂いて。ネットショップで販売できそうだね、と言ってもらいました。」
その一言をきっかけに、彼女はリコーダー好きによるリコーダー奏者のためのケース作りを始めたのだそう。
ユーザーに合わせてケースの大きさも変わる。内張りに、別珍(べっちん)という生地素材を使いリコーダーを優しく包む。
〈なんてニッチな。〉と人は言うかもしれない。
けれど、〈こんなのがあったらいいな〉が詰まっていれば、演奏に向かう足取りだって、きっともっと軽やかだ。
そんな奏者ならではの視点から、安心で機能的に運べるケース作りを心がけているMaiさん。
「生地の仕入れに行った時に、新しい素材を見てケースの可能性を広げる使い方を思いつくと、創造意欲が湧いてきます。」
使い手に思いを馳せ。
裁断、下処理、縫製。
「仕上がりに違いが出るのは布の水通し作業です。これは生地の歪み取りや、布目を整える作業で、半乾きのタイミングを見計らって、布目を合わせながらアイロンをかけます。」
季節や気候によって、所要時間が変わるので水通しは目が離せないひと手間という。
また、リコーダーの種類やサイズ、使い方、ユーザーのこだわりなどに応じて作るため、仕上がりまでの製作期間を確定するのは打ち合わせの後となるそう。
KALAVINKA(カラヴィンカ)とは、仏教における架空の生物・迦陵頻伽(かりょうびんが)の音訳で、非常に美しい声を形容するときに使われる。
リコーダーの美しい音色と表現の可能性に魅せられた一人・Maiさん。
奏者が、安心して演奏の舞台へ赴けるように想いを込め。
場を彩り、人の心を揺さぶる音の世界の裏舞台で、ひと針ごとに奏者と聴く者の想いを繋いでいる。
(取材・撮影/川島沙織 写真提供:KALAVINKA)
KALAVINKA カラヴィンカ
Mai
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