たかしまを彩る人 color.18 川魚の西友 女将 阪田美砂代さん

 滋賀県の面積の6分の1を占める琵琶湖は、豊かな自然にはぐくまれ、多種多様な川魚が棲息している。


その琵琶湖の恵みともいえる水産物の惣菜や佃煮、炭火焼き鰻、鯉の煮付けなど地元の〈おだいどこ〉として親しまれている「川魚の西友(かわうおのにしとも)」(高島市今津町)。

辻川通りにあるこのお店は、昭和初期に本家の川魚店からのれん分けされて創業。

以来、本格的な関西風の鰻の蒲焼きが評判で、「鰻といえば西友さん」と言われるほど広く知られる店として成長。

そして2023年3月に、西友商店株式会社から独立し再スタートした。


 「1938年から始まった川魚屋で、地域の皆様から愛されてきた昔ながらのお店です。3月から社名を昔の名に戻し、孫である夫が、店主として腕を振るっています。当面はお義父さんとお義母さんから店のことを引継ぎながら、少しずつ夫婦でやりたいことを形にしていこうと思っています。」そう話すのは女将・阪田美砂代さん。


夫の浩一さんは調理を担当し、お店の味を守りながら川魚の美味しさを追求。美砂代さんとともに川魚の魅力を伝えている。


じっくりと商品を選びたいお客にとって頼もしく、明るく丁寧な接客と評判の美砂代さん。

辻川のお店を継ぐまで携わっていた駅前店では、その立地から遠方からのお客も多かったという。


また、川魚に馴染みがない地域から来たお客も多く、美砂代さんは商品説明を通じて高島で育まれた食文化や近隣のおすすめスポットの紹介もしている。


 「県外のお客様と話していると、その方が運んでくる地域の風というのがとても興味深いですよ。その地域にしかない食文化を教えてもらったり、情報交換するのも楽しいです。後日、教えてもらった地域の食材を求めて夫と出かける事もあります。」


そうやって、お客との会話から生まれる交流は、何気ないことからでも、美砂代さんにとって学びが多いと話した。


琵琶湖産エビ。水揚げから生命期間も長く、観賞用に買うお客もたまにいるそう。



「これ、大きいしじみやね〜!」そう言うと、お目当てのエビに追加でしじみを購入。
 福井から10日ぶりにやって来たと話すお客は、エビを味噌炊きにして食べるのだと教えてくれた。



結婚を機に、実家の家業だった美容師を辞めて義両親の営む辻川店の手伝いを始めた美砂代さん。長男出産後は電話番からスタートし徐々に仕事を覚えていった。子どもが小学生になる頃には自身の担当する業務内容にも幅が出た。

子どもの学校が終わるとお店が帰宅場所になり、時にはお客に子どもの話し相手になってもらうなど、地域で見守り育ててもらったと振り返る。


 「私自身、子どものころから周りは芯が強くてしっかりした人に囲まれていて。アドバイスをもらったり、助けられたり。ありがたいことに、今ではお客様から大切なことを教えてもらったりもして、ハッとすることも。」と朗らかな笑顔を見せた。




 高島では、その季節に必要な栄養源として古くから食べられている川魚。

春を告げるのはウグイの煮つけ。骨が多いウグイは「猫またぎ」といわれ、食べにくい印象を持たれるが、滋賀県ではメジャーに食される。骨切りをしっかりとしてあり、味は淡白であっさりとしている。


夏は鰻の蒲焼きや活け鮎の塩焼き、山椒をたっぷり利かせ、さわやかな風味が楽しめる小糸鮎の醤油煮。小糸鮎は、一匹一匹アミから外す作業があり、なかなかお手間いりの湖魚という。また、6月から9月はビワマスの煮つけも店に並ぶ。


鮎の稚魚、氷魚の釜揚げで冬の到来。小さいながらもぷりっとした身に、そのままでも酢醤油でも。


午前中から氷魚(ひうお)の釜揚げを買い求めるお客で賑わっていた。


ホンモロコは2月、「寒モロコ」と呼び、焼いて食べられることが多い。

通常、生姜醤油で食べられていることが多いが川魚の西友では酢味噌をつけるのだとか。

観光客に人気の一品。

淡水魚の中でも美味しいと人気のもろこ。京都など料亭でも出される食材のひとつで、近年一般的には入手しにくくなっていると聞く。この「もろこ焼き串(324円・税込)」は川魚の西友さんで購入ができ観光客に人気の品。(写真は2023年3月取材時)


そして、一年を通して買える鯉の煮付けもお店の人気商品。滋賀県の郷土料理のひとつとしても有名で、旨煮やあめ煮ともいわれる。卵を抱えたメスの鯉を筒切りにして、醤油などで甘辛く煮て作られる。鯉は、栄養も豊富なことからかつては妊婦の滋養にもすすめられたという。

じっくりと煮て、とろりと柔らかくなった身と、味をぎゅっと抱え込んだ卵の食感。ご飯によく合う逸品だ。

甘辛に煮付けた照りと香りがお腹を空かせる「鯉の煮付け」(1切れ730円・税込)。 3月は子をしっかり抱えているのだそう。食べやすさ重視なら、尻尾側がおすすめだそう。




 夕方6時ごろ。店では煮つけなどの加工品の調理が始まる。湯気立つ佃煮の甘辛く食欲をそそる香りが、辺りにふわりふわりと漂い出す。


この日は小鮎を炊いているところにお邪魔しました。夕暮れの店から漂う香ばしい醤油の香りに、お腹も反応して家路を急ぎたくなる気持ちに。木の芽のシーズンも楽しみ。


「熱が冷める過程で醤油の塩角が丸く味も落ち着いて、美味しくなるように作られる佃煮は、炊き立てもまた良いです。昔は息子たちにも分けてもらって、出来立てをほおばっていました。私はお義母さんが炊く氷魚が大好きで。この味はしっかり夫に引き継いでもらいます。」と笑った。


川魚は子ども受けすることは少ないかもしれないが、大人になってからその味を懐かしんだりその美味しさに気づくことがある。


〈懐かしい。昔よく食べたなぁ。〉

〈おばあちゃんが炊いてくれたなぁ。〉


そうやって、季節を知らせるものとして家族の食卓の想い出とともに残り続け、ゆるやかに繋がれていく。


氷魚(ひうお)はアユの稚魚。体が透き通って見えることから氷魚と呼ばれています。写真は氷魚の佃煮。

 


ある日、成人した息子の同級生が店に訪れた。

 「すっかり頼もしくなった姿に驚いて近況を聞き、感慨深くしていたら、少し照れくさそうだったけれど。見送りながら世代交代の訪れを感じました。」


色んな人に支えられて続いてきた店。けれど、阪田夫妻の子どもたちには、それぞれに好きなことをしてほしいとの願いから、店を継いでもらうことは考えていないという。


 「子どもたちは、それぞれにやりたいことを見つけて進んでいます。あの子たちに伝えたいのは、人に与えられた時間は等しくて、その時間をどう過ごすか。それには親の私たちが、まずは楽しまなあかん。そう思って、次のチャレンジを考えています。」

夫妻が子どもたちに見せた背中は、やりたいことを楽しんでいく姿勢でもあった。



 「夏頃、店の奥のふた間を使って半個室の飲食も始めようと考えています。地元の方に気楽に寄ってもらえるように。お酒を飲みながら、それに合う一品をゆるりと楽しんでもらえる場も提供したいです。」と美砂代さん。(※追記※2024年1月下旬より着工される予定とのことです)



滋賀の家庭では、ご飯のお供に佃煮や飴炊きを食べられることが多いが、川魚特有のしっかりとした味付けをされることから、酒肴としても好まれている。


湧水も豊富で米どころでもある高島は、発酵が盛んで蔵元も多く、お店の並びにもおすすめの酒蔵があるという。


 「お酒が好きな夫が、かねてから興味があったソムリエの資格を取ろうか悩んでいた時、後押ししたことがありました。あの時にチャレンジしておいて良かったね、なんて話したりしています。」


川魚も、その年の天候や生育状況などによって穫れる量が変わる。

毎年同じとはいかない自然の営みに委ねながら、日々、自分たちにできるベストを探る。


継いだばかりの「川魚の西友」で、昔からのお客に愛された味も守りながら、夫婦で新しいことに向けて少しずつやっていこう。


どこまで形にしていけるか。これからについて思い描くのが楽しい、と美砂代さん。


鮮度が命といわれる川魚の美味しい味や、懐かしい味を伝えていきたい。新しい味への挑戦とともに。より美味しい品を提供していきたいー…。

大切にしていきたい想いを美砂代さんは語った。

この店から、高島の風に乗せて。


(取材・写真/川島沙織)




川魚の西友(かわうお の にしとも)

高島市今津町今津224-1

9:00〜19:00 木曜日定休 ※定休日変更の場合あり

駐車場 約5台

TEL 0740-22-2105

FAX 0740-28-7118

インスタグラム @kawauononishitomo

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カエサルのインスタグラム  @shibe_caesar



お店には、100gから量り売りしている南蛮漬け各種も並ぶ。「鯉と鱒の南蛮漬け」


もろこの南蛮漬け


わかさぎの南蛮漬け
小鮎の南蛮漬け



ぼくカエサル。柴犬4歳。よろしくワン。

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