Go for it! #13 渚の香(なぎさのかおり)主宰 倉長真由美さん
「さじ加減で、面白いくらい香りが変わるんです。」
そう話すのは、天然のお香を使った匂袋(においぶくろ)のワークショップを行っている「渚の香」(高島市今津町)の倉長真由美さん。
匂袋とは、⽩檀や丁字、桂⽪などの香木や香原料を細かく刻んだものが入っている袋のこと。ゆかしくて、懐かしい和の香りを漂わせる。
巾着や和紙袋に詰めて、財布やバッグに忍ばせたり、芳香剤代わりに室内に置いて楽しむことができる。
ワークショップでは、同じ材料でも作る人のさじ加減で仕上がる香りがまるで違う。
参加者同士で香りを比べたりして、香りの奥深さに触れられると好評だそう。
お香は気持ちを明るくしたり、リフレッシュしたりするほか、生活の一部として古くから使われてきた。
場の清浄、邪気払いとして線香や焼香が用いられたり、虫よけとして線香を焚いたり。
衣類の防虫効果で知られる樟脳(しょうのう)もそのひとつ。
昔、調香師に憧れていた真由美さんは、大学で同じ志を持つ友人とフランスのグラースに香水作りを楽しむ旅へ。工房で、50種類ある香料から5種類を選び自分だけのオリジナルの香水を作ったという。
友人とは好みの香りも違ったため、趣の異なる香水が仕上がり、選ぶもので香りが全く違う奥深さと興味深さに彼女は心を躍らせた。
しかし当時、香りを扱う仕事には就けず、諦めたという。
大学卒業後は、化学品の品質管理の仕事に従事し、結婚。かつて彼女がやりたいと思っていたことは楽しい思い出として、家事と育児、仕事の日々に、ただ静かに埋没していった。
そんな日々のなか、心にふと静けさがやってきて、これから一体何をしたいのだろう、と考えた。
日々の忙しさと模索に揺蕩(たゆた)う40代。今までの過ごし方を振り返る。するとザブン、と心に寄せる波から、顔を出した。
あぁ私、〈香り〉をやり残している、と。
「学生の頃に、足を伸ばしていた京都のお香屋さんが、まだ営業されていると知って。お香の調合を学べるスクールを見つけて、そこで色彩心理を用いたお香セラピーの資格を取りました。」
視覚で捉えることができない香りに、色を用いたセラピーと併せることで香りと色をリンクさせ、より立体的に香りを楽しむことができるという。
香道は昔からあれど、個人が気軽に楽しめる時代がやってきたのだと嬉しくなった。
彼女のワークショップでは、9色のカラーボトルから気になる色を選び、リンクする香りの量を調整しながらブレンドしていくスタイル。
選んだ色から、心理状態を紐解き香りを組み立てるので、出来上がった香りに親近感が湧く人もいれば、自分の新たな一面を知る人も。
用途に応じ、室内用のものや、財布や名刺入れに使うサイズのもの、着物の防虫用の調合なども体験できる。また、6月以降には、粉末状のお香を塗って楽しむ「塗香(ずこう)」のワークショップも予定。
屋号に使われている「渚」とは、海や湖などで波が打ち寄せる場所のことをいう。静かに和の香に心を傾けながら、見つめたり癒されたり。日常を自分で調合した香りで彩ったりするのもいいかもしれない。
(取材・撮影/川島沙織)
渚の香(なぎさのかおり)
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