たかしまを彩る人 color.13 Blue bike&soap(ブルー バイクアンドソープ)佐山亜希さん

 江戸時代の商家跡をリノベーションしたお店が点在する「高島びれっじ」(高島市勝野)は、かつての城下町の風情を残しながら飲食、体験工房、様々なジャンルのお店が軒を連ねている。


商工会の有志によって「びれっじ」として再生し、彼らの想いを繋げているその場所は、商店街の活性と高島地域の魅力を伝える一助となっている。


また、近辺には2019年より実店舗の有無に関わらず、定期的に作家や料理家が出店できるレンタルスペースもできたことで、アンテナスポットとなり、市内外問わず様々な世代から注目されるエリアとなった。


その魅力ある店のひとつが佐山亜希さん夫婦が経営している「Blue bike&soap(ブルー バイクアンドソープ)」。




その店舗である「高島陣舎(じんや)」で、カフェが併設された宿泊業を営んでいる。


夫・恭一さんが自転車関連業とSUPツアーをメインに担当し、亜希さんはカフェの運営、宿泊の食事、石鹸の販売を担当している。


さまざまな素材の特色を生かした石鹸は、色々と楽しんでみたいという心をくすぐる。通販では、おまかせの詰め合わせ販売もあり好評。写真は記者が自宅用に購入した7点。店頭で、相談しながらじっくりと選ぶのも楽しい。



その店内に並ぶのが、亜希さんが制作した15〜20種類の石鹸。原材料はなるべく国産で、ドクダミやヨモギ、やぎのミルクなど、季節もので制作する素材は、高島市で育ったものを使うようにしている。


 「夏ならさっぱりと。冬はしっとりとしたイメージで仕上げています。香りだと、夏は柑橘系や軽いもの、冬は甘みがあって重みが感じられるもの。季節に合うようにアロマのエッセンシャルオイルを選んで、使用感や香りを楽しめる工夫をしています。」



石鹸を作るようになったのは、肌荒れに悩んだ時期があったからだという。様々な基礎化粧品を使ってみたものの、亜希さんの肌には合わなかった。


石鹸本来の目的に、付加価値を求めすぎれば、その品質を維持するために入れなくても良いものが必要となったり。


突き詰めていくと、使いたいものはなるべくシンプルが良い、そう確信した。



子どもの頃からアクティブで、やりたいことをやる、と明快な性格だった亜希さん。


 「新卒で就職した企業での仕事は、自宅と職場の往復だけの日々で。やりたいことがあっても週末を楽しむ気力もない、目まぐるしい状態でした。電車に揺られながら、なんて自分らしくない生活をしているんだろうと。そんな折、目に留まった求人が、北海道の競走馬の生産と育成の仕事でした。」


 「これだ!」と思い立って北海道へ行き、2年ほど従事。


馬の出産に立ち会ったり、競走馬として世に送り出すまでのお世話や調教などを行った。


仕事柄、起床も早く、ハードだったけれど雄大な自然の中で汗を流すのは格別だった。

北海道での暮らしは、20代女性が「らしく生きる」ための軸を強くしていった日々でもあった。

 


 「それから結婚をして。当時、埼玉で暖簾分けして頂くために自転車屋に勤め修行をしていた夫と話し合って、開業するなら関東に出すよりも、やっぱり地元がいい、ということになりました。地元に戻ってメーカーや問屋の仕事の経験を積んで、今のお店を開業しました。」

 

かつて休日には、自然を求めて子どもと出かけることに一苦労。住むなら、田舎が良いとかみしめた経験も手伝って、二人の地元だった大津市から、さらにのどかな高島市へ移住を決めたのだそう。


 亜希さんが作るのはオーガニック石鹸に多いコールドプロセス製法と呼ばれるもの。


基材を混ぜ合わせたときに発生する化学反応熱を利用してできた液状石鹸を型に流して固める製法。


液状石鹸の量り売りも。


そこから1か月かけて熟成し完成させるのだそう。


そのため、植物成分の油脂を損なわず、穏やかな使い心地が楽しめる。

また、環境にも考慮し使用する油も米油をメインに、アロマオイルとの相性やバランスを考えて調合している。


サイズは、60gと30gなどがあり、季節や気分で気軽に色々と楽しめるよう、各種ハーブや藍や甘酒、ドクダミ、ヨモギなど季節の野草とバラエティに富んでいる。



 「この地域でつながった縁で、素材を購入させていただいています。例えば藍は高島の藍染作家、蔵元からは酒かすを。そうしてできた石鹸を先方のお店で販売して頂いたりもしています。また、市内の陶芸家に、ソープディッシュを作ってもらっています。こんな風に身の回りにある縁を大切にしながら、良い循環を生み出せたら。」と亜希さん。


コールドプロセス製法による石鹸は、溶けやすいという特徴があるため、使用後はしっかり水切りをしてソープディッシュに保管がおすすめ。地元の陶芸作家が使いやすく制作してくれた特注品。琵琶湖のブルーに見立てた素敵な色の焼き物も。


手に取ると、生産者同士の繋がりが見えてくるのも、この石鹸の魅力なのかもしれない。

 

 「買い物は投票だと思っています。」と、穏やかに話す亜希さん。端的な言葉とともに、彼女の信念が垣間見えた。


 衣食住に関わる製品のほとんどが大量生産によって、欲しいときに手頃な価格で購入できる今。


消費者のニーズに応えるべく、さまざまな企業努力と改良を重ね生産・製造システムが構築されている。


季節にも影響されないような安定供給を前提とする状況が続けば、見渡してみたとき、それが健全な状態なのかを疑問視されても不思議ではない。


近頃では「エシカル(倫理的消費)」や、「サスティナブル(持続可能な)」という言葉を耳にする。スタイリッシュで流行色を感じる言葉ながら、社会全体でこれまでの意識を見直す後押しになっている。


彼女のブログには、〈日本の、滋賀県の、高島の、琵琶湖の大切さ。そしてそこで産み出されるもの、産み出す人たちの尊さを感じて実感してもらえるといいなと思っています。〉と、想いが綴られている。


ともすれば物への価値観や愛着が薄らいでしまいそうな時代にいて、「石鹸」というものに足りないものすべてを詰め込む必要はない、と言える潔さは、なんだか心地よい。


買い物を通して、商品の向こう側にある、作り手や生産者の想いと生み出された背景、知識、経験に触れること。


語られることのない静かな物語は、使う人の元に来て完結に向かう。

そして、どの物語に触れるのかはいつも自分自身が決めて来ることができた。


それならば本当に必要なものはなんでしょう、と手のひらから心地良く香る石鹸が、やさしく問いかけたようだった。

(取材・撮影/川島沙織)


Blue bike&soap

高島陣舎


佐山 亜希(さやま あき)

営業:木・土・日 11:00~17:00

(亜希さんは木曜に店番)

https://blue3196soap.jimdofree.com

tel:090-3059-3196

(高島陣舎・店主佐山恭一さんが応対)

※出張修理やイベント等で不在あり。事前に問い合わせを。

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