たかしまを彩る人 color.11 自主保育ホトリ 主宰 鴫谷香耶子さん

 子どもには成長する力があると信じて見守ることを大切に。親の思惑通りになどならない。それが自然なことだから―。


樹々が色づき、落ちた木の実と落葉で歩み進める足元までもが、にぎやかな晩秋。 自主保育ホトリ」の活動となった酒波寺周辺の散策と自然あそび体験に伺った。


自主保育とは、一般的には0歳~6歳の就学前の子どもを対象に、保護者同士で預け合いながら、公園等を拠点にした野外活動のこと。子どもの成長と学びの場の一つとして、近年ニーズが高まっている。 

 「ホトリは、少し意味合いが違っていて。預け先に困っている方を対象としているのではなく、保護者が自主的に協力し合いながら、親子で楽しむことを大切にしています。」と香耶子さん。 


また、活動中に母親同士の情報交換や、相談ができる場となり、さまざまな大人の見守りの中で過ごし、ママが肩の力を抜いて過ごせる時間にもなっている。 

野鳥のさえずりとともに、お寺の裏山でこだます明るい声。のびやかに遊ぶ子どもたち。


 自然の中で五感をフルに使って遊ぶ幼児期を過ごすと、危機回避能力やひらめきといった思考力、思いやりや情緒の安定など様々な成長が期待されるという。


 この日は、晴天の心地よい日だった。お寺の裏山へ向かう道中はじっくり歩きながら、足元に落ちている椎の実を拾う。 香耶子さんが、これは食べることもできるんやで。と子ども達に割って見せると、まるで宝探しのように目を輝かせて集め始めた。 


観察しながら、美味しいひとつはどれだろうと熱心な子どもたちを見ると、今も昔も子どもは変わらない。


「高島は本当に良い場所ですよね。」と香耶子さんはしみじみ話す。


道中に実る冬イチゴ。甘酸っぱい。摘んでは歩き。摘んでは歩き。楽しい道中。


U ターンで戻ってきた香耶子さん。地元を離れている間も、足元や視線の先の身近な自然や四季の移ろいに目を向けることは、彼女にとってはごく自然なことだった。


京都で暮らしていた頃、友人が『自然に目を向けるあなたを見ると思い出す一冊がある。』と教えてくれて。それが自身の思いに気づかされ、後押しとなった。と振り返る。 


それは、生物学者のレイチェル・カーソンの代表的な著書「センス オブ ワンダー」。 誰もが生まれながらにして持っている自然の神秘、美しさに目を見張る心。五感で喜びを味わうこと。それが子ども達が持つ豊かな感性をさらに育んでいく、と説いている。


 空高く、広く。

目の前に広がる高島の田園風景。


葉の色づき。日常にあふれる身近な自然。季節の移ろいや生命の起こす変化。 そういったことに目を向けては、幼いころより語りかけてくれた親の存在が、活動の原点にもなっている。と話す。


「20 代前半は京都に住み、作業療法士として働いていました。これまで淡々と日々を消化し、自信が持てないでいる時期で。そこには、モノづくりをする魅力的な人たちに囲まれて。人生を謳歌している彼らの姿は、私の人生観を変えるきっかけとなりました。」


 刺激を受ける日々と、私には何ができるだろうというはざ間で。想いを巡らせた先、世界を見ようと一念発起。ビザを取得し、ワーキングホリデーで1年弱ほど台湾に滞在することに。


悶々とした自問自答の日々を振り払い、足を踏み入れた異国の地。 現地で知り合った台湾の方たちからの温かいサポートで、アパートや、自身で見つけた飲食店で働くまでの当面のバイト先まで。


優しさと逞しさを持つ人々と共に働き、楽しい食卓を囲む日々だった。 ある日、親しくなった台湾の友達とインドへ旅行し、糸紬ぎの仕事を見学していた時のことだった。


 町のあちこちの家で、夕飯の支度で湯気が立ち昇る頃。仕事を終えた女性が、頭に巻いていた布を外すと、ふうっと息をついて歩いて帰って行った、その瞬間に。


「あぁ、日本に帰ろう。」と、思ったのだという。


その女性の振る舞いに凝縮されたものは、言葉以上に強かった。彼女が探していた答えは、そのシーンそのものにあった。


生きる、暮らすって、とてもシンプルなんだ、と。


足取り軽く帰国し、より生活に寄り添える訪問での作業療法士の仕事を再開。


やがて結婚した彼女は、子どもを授かると、なるべく自然な育児がしたいとおむつなし育児や、自然療法による育児法に興味を持ち、実践するように。 トイレトレーニングを一つとっても、子どもには生きる力が備わっていることに目を向けることができたという。


2018年、息子さんが2歳になる頃。自然の中で子育てがしたいと思いが湧いた矢先、偶然が重なり実家を譲られ、住むことになった。


地元とはいえ、同世代の子を持つ友達がいない状況も手伝って、2019 年の夏、自主保育ホトリがスタート。


「当初は、メンバーのお子さん達も入園前だったので活動は週 1 ペースでしたが、今では月に 2、3 回に落ち着いています。」


そして息子さんが幼稚園に入園した今。

預けている間は作業療法士の訪問仕事と家事、育児、ホトリの活動というリズムとなった。 


 「家の中で、4歳の息子と二人で過ごしていると気持ちに余裕がなくなったり、煮詰まってしまうことも。そんな時は、ただ風に吹かれて子どもと走ったりするだけでも、心が穏やかになれるんです。自然の力って凄いと。高島に帰ってきて本当に良かったと思います。



「ホトリ」の名前の由来は琵琶湖の「畔」、自然の近く、という意味の「辺」から。


春は野草を摘んで食べ、夏は琵琶湖で水遊び。

秋は酒波寺周辺を散策、焼き芋をしたり。

冬は餅つき、雪遊びなど。


一年を通して高島での遊びを満喫できる内容と、保護者に向けた子育て講座も企画している。


 「転倒しそうでも、意外と子ども本人は加減を知っていたり。包丁を使うことにもチャレンジしています。内心はハラハラしながらです。そうやって、活動中は子どもの主体性を尊重して見守ることを皆さんに理解いただいています。」と香耶子さん。


 活動案内のメールには、『子どもたちがなるべく想いのままに楽しめるように、あかん、あぶない、汚いはお口チャックで』と、いつも添えている。 大切なのは、先回りせずに信じて見守ること。


失敗も含めてどんなことでも経験、糧となる。思い通りにならない経験もまた、自然なことなのだから、と。 

そう語った時の香耶子さんの穏やかで落ち着いた口調と物腰。必要なのは、親側の覚悟なのかもしれない。 


 ホトリでは、農家さんや、地域の方にサポート頂いてレクリエーションを企画。それがご縁となり、保護者と地域に新たな繋がりを生んでいる。


また、2021 年 8 月、赤い羽共同募金「たかしま未来助成金」の採択を受けて、これまで予算面で二の足を踏んでいたことに充てることができ、活動の幅が広がったそう。


 「何より、想いを同じくするメンバーが、より良くしていこうと役に就いてフォローしてくれるので、心強くなりました。」と話す。


 今後は、我が子や参加しているお子さんの成長に合わせ、活動内容も柔軟に変化していきたい。色々なスキルを持った方からも協力を得て、地域に根差しながら。新しい形を構築していきたいと語った。


 見渡せば、そこらじゅうに高島の田園風景が広がって。そこに吹き抜ける風は、とてものびやかだ。

(取材・撮影/川島沙織)


自主保育ホトリ

主宰:鴫谷 香耶子(しぎたに かやこ) 

活動日:毎月2〜3回、主に土曜日

問い合わせ:kayac1029@gmail.com


琵琶湖や山のほとり、自然の中で子どもたちが心と身体で

感じること、子どもたちのやってみたい!を大切に活動中。

ホトリの活動の様子はinstagramにて

https://www.instagram.com/jishuhoiku.hotori/

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