たかしまを彩る人 color.10 剣詩舞 紫桜会(けんしぶしおうかい) 師範 萬木美津代(ゆるぎみつよ)さん


 運び足という舞の動作。すり足で歩みながら地を踏み、場の空気が鎮(しず)もる一挙動。


へその下に位置する丹田に力を入れ、重心の安定が見て取れる動き。そこに居る者は、その神聖さに目を奪われてしまう。




剣詩舞(けんしぶ)という古典芸能をご存知だろうか。

剣詩舞は、江戸末期から明治初期にかけ、武士の剣術をもとに、美しく表現する舞台芸術として編み出された舞である。


漢詩や和歌を中心とした吟詠に合わせて、武士の剣士の所作振る舞いから心情などを舞で表現したもので、現在までに多くの流派によって受け継がれている。


また、そのベースともいえる剣舞は、起源として宮中に伝えられる格調高い舞「太平楽(たいへいらく)」が示す通り、奈良・平安時代に興った「舞楽(ぶがく)」にその原型が見られ、時の変遷により現在の剣舞となったと言われている。



高島でも、30年ほど前には市内3か所に稽古場があり、子どもの習い事としても人気があったという。


剣詩舞を始めたのは10歳。子どもの頃から体を動かすのが好きだった美津代さん。


当時すでに習っていた友人家族からの誘いをきっかけに習い始める。

 「当時は友達と会えるのも楽しみの一つで通っていました。元々、運動は好きでしたが、人から注目されることが苦手な内弁慶な性分で。たくさんの生徒の中に紛れるくらいが当時の自分にはちょうど良かったです。」と振り返る。


 進学を機に地元を離れてその後、地元に帰ってきてしばらくは、剣詩舞から離れていた美津代さん。


 「私生活でも転換を迎えた10年ほど前から、わが身を充実させていきたい。」と思い立ち、稽古を再開。


再び通いだしてから、しばらく大会などには出場せず、稽古に専念した。

数年前には、近畿大会に出場するも結果は奮わず。その翌年は6位で今一歩というところで上位を逃したが、今後に向けた課題も見つけることができた。


 そして近頃では、やる目的が変わってきた。と話す美津代さん。


 「舞は美しさだけでなく、見る者に風景や情景を思い起こさせることも求められます。」


表現は全身を使って。手の先から足の先、目まで。

表現は動くことだけではなく、纏う雰囲気。止めた指先、目線が作る空間、立ち姿、間。


卓越した演者ともなると、立ってるだけでそこに一つの空間を作ることができるという。


動の中にある静。また、静の中にある動。表現は決して形だけでは見せることができない、と稽古を重ねるごとに感じる。



ただ「上達したい」という思いから、少し先を意識し見えてきた課題。

 「自分にはまだパンチが足りない、控えめな部分があることを先生からよく言われます。」と彼女は苦笑する。


内包する自己との対峙は、常に。年を重ねるごとに出合う物事とともに、詩を腑に落とし、表現としてさらに磨き続ける。

それは決してスキルやノウハウだけではない世界。



 四十代後半。この年齢ともなれば、自分のことだけではなく、様々に向き合うことが増える。


だからこそ日々の忙しさから少し離れて。じっくりと心身を使った表現をすることで、自身を開放し、同時に自分に立ち返るひとときだという。





終始謙遜し続ける彼女。剣詩舞を語るその端正な佇まいと眼差しは印象的で、向上心とともに楽しむ気持ちに満ちていた。



 彼女が通っている剣詩舞紫桜会(高島今津教室)。その流派は、正賀流(せいがりゅう)といい、流祖・鉤正滋(まがり せいし)さんが昭和40年に大津を本部に開講した剣舞・詩舞の教室。


現在、見学参加も随時受付中で、小学生から参加可能なので、気軽にお越し下さいとのこと。


 「練習は歩く動作から。そして身体を動かすことを楽しみ、自分の芯と向き合える時間をご一緒しませんか。」と美津代さんは語った。



(取材・撮影/川島沙織)



剣詩舞 紫桜会 (けんしぶ しおうかい)高島今津教室

稽古場所:働く女性の家 2F軽運動室

毎週水曜日 19:30-21:30

月額4,200円(月4回、月によっては5回)

指導 鉤正賀(まがり せいが)先生 

 

問合せ先:

正賀流吟舞社 090-3617-5620(鉤)



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