たかしまを彩る人 color.09 蔵カフェFleurs de mars(フレール デゥ マルス)井花弥生さん

《また、活気のある海津にしたい。》とー。



マキノ町海津。湖からの波と風から家屋を守るため、元禄 16 年(1703 年)、江戸時代前期に築いたという石積みが続く。その成り立ちについては「願慶寺文書」にも残されているという。


西近江路と湖上交通の要衝として栄えた港町・宿場町 。 一帯はかつての繁栄の跡とともに、市内の他の地域とはまた違った風情を残す。


また、「さくらの名所百選」に選定されている海津大崎。600 本もの桜並木と岩礁というあまり類を見ないコントラストは、世代や地域を超えて愛され続ける場所となっている。 


その海津で、自宅の蔵を改装した「蔵カフェ フレールデゥマルス」を営んでいる井花弥生さんを伺った。


店の名前はフランス語で三月の花を意味し、自身の名前「弥生」から付けた。


お知り合いの作家に描いてもらった看板。



井花さんは以前、ホームセンターで樹医資格を持つ園芸スタッフとして従事。依頼があると寄せ植えや庭手入れについての講師活動なども請け負っている。


今でも出先や来店したかつてのお客から植物のお世話の質問を寄せられることが多いとか。 「それ以外にも、仕事は色々とやったのよ。」と軽やかに笑う弥生さん。



 「中学を卒業すると、地元を離れて進学。その後、自分で貯めた学費で歯科技工士になるべく進学したけれど、資材の一部が私の体質には合わなくて中退してね。それから働くことにしたの。」 


これまで、彼女は大衆食堂や音楽配信業の営業、料理人の調理補助も行うレストランスタッフなどにも従事したという。


 「勤め先で生まれたご縁で新たな仕事を紹介されて、掛け持ちしたりもしてね。」と寸暇を惜しまず働いた。 



2人の子ども達の自立を見届ける頃、自身の中で、温め続けていたカフェオープンに向けても動き出す。


築130年を超える蔵の改装では、外壁の塗装や漆喰を塗る作業も教わりながら、時折友人にも手伝ってもらいつつ、コツコツと進めていった。




 自彊不息(じきょうふそく)。自ら進んで努め、励み続けることを意味する言葉がある。彼女を見ると、そんな言葉も浮かんでくる。 


今何ができるか、と動き続ける彼女。止まってしまうと返ってダメみたいなのよ。と笑った。 


 「振り返ると、色々あったけれど、自身が苦労したとは思わない。でもカフェをするのに必要な素養が、これまでの仕事で培ったもので賄えることは想像していなかった。」と、これまでの足跡を締め括る。 



ともすれば、人は自身に「無い」ものや「できない事情」にフォーカスし、止まってしまいがちだが、色々行動してみた結果に無駄なことはないのだ。



 海津大崎の玄関口から町並散策ルートに蔵カフェはある。

海津大崎の桜並木の植林で、かつてその一翼を担った地元名士の孫・井花家の長女として生まれた弥生さん。


幼い頃より後継ぎとしての責務を教えられ、懸命に働く両親の背中を見て育った。自立心旺盛で姉御肌な気質は、いつしか「姉さん」と慕われて久しい。かつて自分自身を奮い立たせたプレッシャーは、今では宿場町再興、地域貢献への想いへ転化していく。


2Fはイベントスペースとして利用可。ここから望む景色はおすすめ。この部屋の窓から見える四季折々で空を真似るように濃淡を変えていく湖面は見もの。(写真は冬〜春)




現在、カフェを経営する傍ら、高島市立マキノ東小学校のボランティアとして植物の世話や、自然体験活動のサポートもしている弥生さん。


  今年、マキノ東小では、2005年に始まった自然学習のカヤック体験が 16 年目を迎えた。5、6年生が湖へ漕ぎ出し故郷の自然や素晴らしさを体感する恒例行事。


近年では少子化に加え、保護者の多忙化で、行事の継続に課題があると聞く。


 「本番当日まで手にマメを作ってしまうほど練習することや、保護者がサポートに駆り出されることを、少しネガティブに捉えることもあるかもしれない。けれど、今だからできる経験。子ども達にとってかけがえのないことだと思う。」と弥生さん。


自力で懸命に漕ぎ出て見る湖上からの景色。肌に受ける風。充実感とともに同級生と苦楽を味わった色濃い思い出。 


それが糧になることは、どんな時代を生きる子どもにも必要なことかもしれない。


お店の裏にある浜に降りて散策も。
シーグラスならぬレイクグラス探しを楽しむ人も。




 2020年 8月のカフェオープンから1年が経った。


お客との会話の中で、思いがけない共通点やご縁に気づくことが多いという。 帰り際に、「また来ます。」と言って、店を出る言葉が嬉しく元気をいただいて。


そしてまた、友達や家族を連れて来店下さることもあり本当に有難い。と話す。


 「そうしていろんな人と、長らくのご縁として繋がっていく予感がして。」


かつて音楽配信業の営業で、一軒一軒をまわって仕事をしていた時に辿り着いたこと。 丁寧さを忘れず、人と心を通わせ、縁を大切にする姿勢を持つ。それはどんな仕事をしていても共通している。と。 


店の隣は、彼女が育ったかつての自宅だという。木の温もりを感じる落ち着いた佇まいの家と琵琶湖を目の前にした暮らし。


時に穏やかに、時に波立つ湖から運ばれる風をいつも感じる距離で育った。 


目に映る湖の青は様々。その色は四季折々で空を真似るように濃淡を変えていく。


夏の空を映し出すような碧や、水墨画のように薄墨色の雲が伸びる季節には、その色を含んだ蒼となる。 繰り返される四季の移ろいに、ただ琵琶湖は琵琶湖であり続けている。


そして海津の石積みも都度に修繕を加えられながら、時代を越えて、今もなお人々の暮らしを静かに護り続けている。 


それらが淡々と在り続ける強かさは、自分に誠実に生きることを教えてくれているかのよう。


 うん、と聞いてくれる店主と、この景色を前にすると思わず溜まった想いを吐露してしまう。そんなお客もどうやら少なくない。帰る頃には笑顔になって。 


行き交う人がこの景観を楽しみ、この町を知り、良い時間を過ごすお手伝いができれば。と弥生さんは語った。 


(取材・撮影/ 川島沙織)

週替わりランチの生姜焼きランチプレート(¥1,200 ※材料値上がりのため2022年7月より¥ 1,350)。彼女の営むカフェは世代や性別問わず様々なお客が来店している。また事前に伝えてもらえばアレルギーの方への対応も可能。
レモンのムースのケーキセット(¥800 ※材料値上がりのため2022年7月より¥ 850)は甘さ控えめで、さっぱりといただける。ジューンベリーソースも添えて。こちらは取材時のデザートメニュー。自家製酵素ドリンクや、にんじんを使ったパウンドケーキなどの焼き菓子も人気。こだわりの焙煎豆を使ったコーヒーはまろやかで程よい苦味が楽しめる。
蔵カフェ フレールデゥマルスのお店外観。


2階の梁は圧巻。


2021年2月撮影 蔵カフェの2階からの景色

蔵カフェFleurs de mars(フレールデゥマルス)

高島市マキノ町海津2317

0740-28-1764

infofleursdemars@gmail.com

11:00-17:00(土日祝 10:30-18:00)

月、木 定休

※お休みが変則的になる場合あり。FBをご確認かお問い合わせを。

(店名クリックすると別窓でFBページが開きます)

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