たかしまを彩る人 color.08 くつき源流のお宿 古民家cocco小入谷 廣清乙葉さん
田舎といっても、いろんな人の手垢にまみれていない、そんな所に住みたくて。
明るく凛とした表情に、固い決意を秘め。
移り住んで5年目。
2021年9月20日、外界からひとつ隔てるように奥まった地域で、その古民家は産声を上げる。
「くつき源流のお宿 古民家cocco小入谷(こっこ おにゅうだに)」(高島市朽木)。
すべてをそぎ落として一家移住を決めた地は、高島市朽木生杉。同じ市内からでも一時間ほどかかる、まさに奥地だ。
2016年4月、廣清乙葉さんは、奈良県生駒市から高島市朽木生杉へ、家族みんなで削ぎ落とすだけ落とし、移住。
夫婦と長男長女の4人。日付変更間際に帰宅する夫と、自身は仕事と育児に追われる日々だったという廣清家。
追われるように日常をこなし、遠く遠くに見つめる疲弊しきっていたあの頃。
怒涛に過ぎていく。なんだろう。矢継ぎ早に毎日を消化しているだけで、味わいがない。
親になったのに、その喜びをあまり感じることができずにいたという。周りに思わず『人生って、こんなに忙しいの?』そんな疑問を投げかけたこともあった。
そんな時に、ふと目に留まったSNSの投稿。自然に包まれのびのびと育児をしている田舎暮らしの風景が、眩しく映った。
「それが今のご近所さん。いつもお世話になっているご一家だったの。」
そうやって眩しく目に入ってくるものは、自分の抱えている問題をクリアしている人だということに気が付いた。
「長男を出産してから二度流産をして。気落ちし深い悲しみの中で、私も田舎へ行きたい。山を見て、暮らしたい。奥底からそんな気持ちが沸き起こって。」
朽木で暮らすんだ。と決めた日から、同時にクリアしなくてはならない家族の課題とひとつずつ向き合った。
移り住むと、鳥のさえずりを聞いて朝を迎えることや、水道のお水も美味しいことに感動した。
また、彼女が「お山の学校」と呼んでいる朽木西小学校の児童数は3人と少人数。運動会や発表会などの学校行事は地域のおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に子どもたちの成長の喜びを分かち合い、楽しむ。
山での生活は、お味噌や漬物など発酵食や保存食の仕込みごとも多く、旬も待ったなしにやって来る。
畑をすれば動物にやられ。自分だけでどうにかできることは無いことを知る。
ある日は、罠にかかった鹿の解体。力仕事のため、ご主人との共同作業。貴重なたんぱく源を美味しく保存しておくには手際の良さも必要という。
丁寧に処理された鹿肉のローストは臭みもなく絶品。マキノ町海津のわな猟の達人の教えも乞い、2021年6月わな猟免許を取得。
山での暮らしは、その時に何ができるか。自分だけの見通しだけでは成り立たないことが多い。
かつては自分のペースを守ることに囚われ、自身の首を絞めていたけれど、今は自然の営みや、人に歩調を合わせる、そんなことを学んだという。
「お米づくりがまさにそうで。やると決めたら投げ出さない。試行錯誤しながら土を触り、自らの経験として落とし込む過程も楽しみたい性分なの。」
土づくりと共に培われるは、生きるためのしなやかさと哲学。
「手放してばかりの日々にはその分面白いほど素敵な物事がやってくる。そんな味わえる暮らしが愛おしくて。お山暮らしのお陰で、ようやく私は人間になれたの。」と、乙葉さんは笑う。
近頃見なくなった「はさがけ」は圧巻。2020年10月撮影
振り返れば息吹を感じるほどに迫る山とその自然に、生きるための知恵やしなやかさ、逞しさを教えてもらう日々。
「去年よりも葉の色が濃くなった。」と葉についた虫を取りながら野菜の生育をチェック。
移住して5年目の今年、長男が奈良へ進学。廣清家に新たな物語が紡がれ始めた。
「縁あってさまざまな人のお力を借り、小入谷の古民家をお宿として経営することに。これからはこの地域に人を呼び、魅力を知っていただく。良い意味で行政に頼り過ぎず、自立した仕組み作りにチャレンジしたい。」
そしてこの地を好きになって移住してもらえたら。と。
源流の澄み切る川の水の如く。その純度の高い想いは、ふくよかさを増して。
山葵が生えるほど清らかな水を湛えた庭池と山からの湧水。古民家の周りは四季折々で楽しめることがありそう。築200年を超える茅葺の古民家は、おくどさんをはじめとする古き良き時代の暮らしを静かに、じっくりと満喫できそうた。
無為自然に生きるを味わう。かつては当たり前だった様々なゆとりや遠のいたと感じる物事や時間は、手放した者にやってくる。
ある日は野草で作った茶葉で、美味しいお茶を淹れながら。またある日は収穫した季節の実で作ったジュースで、彼女はこの村で紡いだ物語を楽しそうに話すのだ。
(取材・撮影/ 川島沙織)
~くつき源流のお宿~ 古民家cocco小入谷
廣清 乙葉(ひろせい くによ)
高島市朽木小入谷283
080-5345-7128
※宿泊対応や農作業等で電話に出られない場合があります。
cocco.onyuudani@gmail.com
施設利用、宿泊についての詳細は下記FBよりご確認ください
https://www.facebook.com/cocco.onyuudani/
お宿の前の「小入谷」バス停
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