たかしまを彩る人 color.06 薬膳サロンつむぎ 国際薬膳師 提中知子さん



 くすりの膳と書いて薬膳。薬膳とは、漢方の元になった中国医学をベースに、日常で使う食材や漢方薬に配合される生薬を組み合わせて心身の不調の改善や健康維持を目的とした栄養学である。 


 なんとなく体がだるい、やる気が起こらない、頭痛、肩こり、目眩や月経前の不調やなど。歳を重ねると、何かしら思い当たるかもしれない。


 「ああ、またか。」くらいで、しばらく様子を見る。その場をやり過ごしてはそれを繰り返すことも多いのではないだろうか。 


 この受診までもいかないけれど、心身に起こる不調を中医学では「未病」と呼ぶ。これを放置し続けると、未病から病気になると考えられている。 薬膳では、食養生といって未病を引き起こす原因を探り緩和や改善に向けて食事からアプローチしていく。


 「薬膳は専門的なイメージですが、実はほとんどがスーパーで買える身近な食材で。驚かれることが多いです。」


国際薬膳師で、国際薬膳調理師と漢方養生指導士の資格を持つ提中知子さん。 薬膳サロンを高島市安曇川町に構え、心身を健やかにしたい方たちに食材や効果的な調理法などのアドバイスをしている。


  彼女の元を訪れる理由は様々。冷えによる肩こりや頭痛などの不調、更年期にありがちなほてりや不妊の悩みなど。30代から60代と幅広い。 


 人によって体質や生活習慣は違うため、ヒヤリング形式でじっくりと話を聞いて体質診断を行い、その方に合った食事診断を展開していく。


 「時折流行る健康食材も、本当に自分に合うものか確かめながら取り入れていただければ。」と話す。 実は、体に良いからと日常的に食べているものが、良い効果をもたらすとは限らない。 その取り入れ方や組み合わせによっては、かえって不調を助長するケースもあるそうだ。


 「便秘で困っているとしたら、気の巡っていない体質なのか、体に熱がこもっている体質なのか、または冷えている体質なのか。体質によって有効な食材が違ってきます。」 



静かで落ち着いた雰囲気のサロンでお話を伺っていると、椅子に根を下ろしてしまったように穏やかな時間が流れる。 どうやら煎じていたお茶が頃合いのようだ。そんな音がしたのかさえも、この穏やかな時間の中では気にも留めなかった。 


 すっと席を立ち、特製の薬膳茶を注ぎ入れながら「レシピをひらめくと、あれもこれも検証して改良を重ねたりとつい熱中してしまって。」と話す。 


 研究、検証、実証をひたむき積み重ねていき、製品開発やカウンセリングに落とし込んでいく。 


  「その年代において、どこが自分にとって良い調子なのかを知ると整えやすいですよ。」 


提中さん自身、冷えやむくみの不調を薬膳によって体質そのものを改善することで、ここ近年は忘れるくらい緩和されてきたと話す。そのお顔の血色の良い艶肌ときめの細やかさは、なるほど納得である。 

不妊治療の前に体質に向き合うこともひとつ。そう語る提中さんは結婚後、繰り返す流産を経験。双子を出産後、子供の体質改善に奔走して辿り着いたのが薬膳だった。漢方養生指導士、国際薬膳師の資格取得と実績を積んでいき、自分自身を含めた家族の健康課題に対し食養生という可能性を見出していく。彼女の物腰柔らかな口調と佇まい。相談者は彼女の底深い知識量に安心感を覚える。 



 「意外かもしれませんが体は温かければそれで良いものではありません。体は、冷えにも温まりすぎにも傾いていない状態が健康とされます。このバランスの取れた中間を目指していれば、その方にとって一番不調のない体に近づけるんです。」 


 男性は8、女性は7の倍数で体質の変化があるといわれる。女性の場合、28歳をピークに、体のコンディションは下降線を描き始める。 それが、月経、出産、更年期、閉経といった時期と、結婚、出産、育児、介護等、どこかしら人生の節目と重なる。 


 薬膳では「気」「血」「水」の三つの要素がバランスよく整っていることが健康とされる。生理機能に関わる五臓は、「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」に区分され、不足や滞りによって喜怒哀楽といった情緒も関わり合うとされる。


 例えば弱った「肝」は「血」を不足させ気持ちを昂らせてイライラさせるので、「血」を補う食事をすると良い。またその逆もあり。ストレスなどから「肝」が弱れば肩こりや眼精疲労、めまい、生理不順などが起こることも。 


取り巻いている環境や生活習慣、要因はさまざまだが表面化した不調は、思いがけず栄養の過不足によって引き起こされるのだとか。 



薬膳サロンつむぎを始めて今年で10年。

 「アトピーなどの病気が隣り合わせだった子供たちも、今では改善され健康的な体質へと変化しています。また、夫の腰痛にも食事で対応しました。家族の身近な食医です。」


 出産、育児、介護と人生で出合うさまざまなシーンと、自身を含め家族の健康課題にも粘り強く向き合えたのは、薬膳とともにある暮らしによって、その奥深さに魅了された者に宿る情熱と精神なのかもしれない 。 


 現在、彼女は一人ひとりの体質診断に基づいた食材のアドバイスで、体質改善の具体的な方法をサポートするほか、介護食アドバイスや甲賀市特産品のお菓子開発のコーディネーターとしても活動している。 


 また、地元の食材を使った商品も準備中。2021年8月には女性の日々の体調ケアに役立つ薬膳茶など、より身近で気軽に薬膳が楽しめるネット販売も予定している。

家にあるお酢に漬けおくだけ。気軽に食事に取り入れることができる「薬膳お酢ミックス」 お試しサイズ3包15g¥500(税込) 気軽に冷えや肩こり、生理痛などの女性の不調をケアする3つの食材が配合。ドレッシングや餃子のたれ、和え物などに。使い方が広がるさわやかな柑橘系の薬膳酢になる。 
[作り方] 清潔な瓶に薬膳酢ミックス1袋とお好みのお酢150-200ccを入れて1週間から10日保存。甘酸っぱい香りがすれば完成。1袋で2回濾して使える。


春の風に冷えた体にじんわり染みてほっこりといただける 「薬膳ラテ」はすべて高島産食材を使用。 温めると綺麗な紫色に。黒米、小豆、黒豆を提中さんによる 絶妙な配合と独自焙煎によって、優しくふくよかな甘みと 香ばしさが楽しめる。この余韻は心まで温めてくれそうだ。 パッケージ刷新に伴い価格は取材時(2021年4月現在)は未定。 ご興味のある方は提中さんまでお問い合わせを。


[作り方] すべての材料を(下記参照)を鍋に入れて中火。 泡立て器でおよそ2分程度よく混ぜるながら温める。
 豆乳100cc ラテすりきり大さじ1と1/3に砂糖小さじ1/3 
        150cc ラテすりきり大さじ1に砂糖小さじ1 濃厚なコクを出したい場合は黒砂糖、少しコクが欲しい場合は甜菜糖、 あっさりを楽しみたい方はメイプルシロップ、と使い分けると良いそう。(ラテ完成写真は提中さんより提供いただきました)


「薬膳の知識を詰め込むことにフォーカスせず、何の食材を、どの食材とどのように作るのか。組み立て方を知り、ご自身の体を知っていただきたいです。そのお手伝いになれば。」と提中さん。 積み重ねた不調は丁寧に向き合っていきたいもの。今抱えているあらゆる不調をどうにかするよりも、まず体質を知ること。それが大事なのだそう。 


 人を良くすると書いて「食」。 一人で自身の体と向き合うよりずっと心強いのではないだろうか。

(取材・撮影/川島沙織)


木の温もりが感じられる静かで 落ち着いたサロン。
黒豆、黒米、麦芽、陳皮(みかん皮)など 聞き慣れた食材が並ぶ。
サロン外観

薬膳サロンつむぎ

滋賀県高島市安曇川町 川島629番地 TEL:0740-34-1620 午前10時~午後4時 (日曜日、祝日定休) sa.yakuzen-tsumugi@gaia.eonet.ne.jp

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