たかしまを彩る人 color.3金ちゃん農園 堀田美央さん
高島市今津町浜分にある「金ちゃん農園」は、農薬や化学肥料不使用の「いきものたんぼ米」で知られる米作りと酪農を営んでいる。
生産したものは市内外にあるカフェや飲食店に提供し、食材選びから力を入れる彼らの仕事を支えている。
54年前から有機農法による農業を営んできた義父・堀田金一郎氏のもとで手伝う美央さん。
かつては別の仕事に従事していた彼女は4年前、3人目を身籠ると身の振り方を考えることとなる。育児と仕事。職場に迷惑がかからないように子どもの体調管理に神経を尖らせる日々。
気を奮い立て心身に無理を重ねていた時期だったと振り返る。折しも、それまでの働き方を問われるかのように義父の手伝いという転機が訪れた。
「産後、動き出せるタイミングで農園の手伝いをスタートすると、とにかく楽しくて。朝、子どもを園へ送り出したら農園を手伝い、たくさんの汗を流して、休憩したらまた仕事をする。そんな日々でね。」と笑う。まるで水を得た魚のようだ。
取材に伺った時、二人は30mもあるネットの巻き取り作業中。合間にしておく作業はいくつもある。
育児に対する理解や協力が得ながら働くことに、美央さん自身の気持ちのゆとりも生まれて子育てが以前にも増して楽しくなったと話す。
農園では、主食米や酒米のほか、古代小麦で栄養価の高いことでも近年注目されているスペルト小麦、滋賀県の在来種で香りと甘みを兼ね備えた大豆「みずくぐり」を栽培。
作付け面積は12hに上り、米作りの後に麦、大豆を育てると冬から田植えの時期まで休ませる二年三作を行っている。
この農法は、田んぼを養い、地力を向上させるだけでなく、そこに生息する生き物の多様化の一助となっている。また、耕作に偏りがないことで生まれる循環が、ひいては琵琶湖と水、人を含めた生き物と全ての生態系に繋がっていくという。
今年は長梅雨のため生育がいまひとつだった大豆の植え直しをした。毎年同じようにはいかない農業。作物を手に取り表情を見て、どのようにしていくか。
義父から学ぶことは多く、長らく高島で有機農法をしてきた義父の背中は大きい。
農園の手伝いを始めて4年目となった今年、美央さんは大型特殊免許を取得。作物と向き合う日々に、さらに充実感を覚えた。
「お義父さんには、まだまだ元気でいて欲しいから。」
取材中に何度か口にし、彼女の仕事に対する意欲と歳を重ねた義父への心遣いが垣間見えた。
農園の案内を終えたころ真夏の太陽は真上に。汗を拭き帽子を被り直しながら、これだけ拭えば日焼けするよね、と笑う彼女の話は小気味良かった。
いつになるか分からないけれど、育てた大豆で作った豆乳を子ども達に飲ませてあげたい。母として生産者として、継ぐ者として。
充実した日々の中に芽生えた目標を話す横顔は、 しっかりと地に足をつけ「今」を生きる人の顔だった。
2020年9月。暑さ和らぎ始めた日。フリーペーパー版のパレッターズ表紙用に、稲刈り風景を撮影させて欲しいとお願いし再び農園へ。
収穫期を迎えた田んぼは、畔を歩み進めるたびに羽を慣らして遠くへ跳び発つ虫たちで賑やかだった。
田んぼ付近には準絶滅危惧種のチュウサギも。このサギが好むナゴヤダルマガエルも生息しているが、生き物好きでない限りはトノサマガエルと見分けがつかないかもしれない。
金一郎氏は息子さんと美央さんが刈り取り始めたのを見届けると、ちょうど今、コウノトリが3羽来ているからと案内してくれた。
そこは農園から約1キロ圏内。ある日は敷地内の電柱で羽を休めているのを見ることができたという。
以前の飛来はマキノ町で今年は今津町の石田川近辺。この三羽を見かけるようになって9月でひと月が経ち近隣住民にとって嬉しい来訪者となった。
国の特別天然記念物のコウノトリ。3羽のコウノトリが刈り取り後の田んぼの虫を啄む様子。2020.9月撮影
静かに佇めば見えてくる生き物たち。「たかしま生きもの田んぼ米」を担っている彼らの農園に来ると、かつて日本ならどこにでもいた虫や生き物たちの息遣いをより感じる。
コウノトリ 2020.9月撮影
これまで消費者である私たちは生産力と見栄えを重視し、それを享受してきたが、果たして。
イナゴも
なぜか堀田さんの手から逃げようとしないイナゴ
「農業を通じて生き物たちも私たちも活き生きとつながっていく。」
そんな想いで営む金ちゃん農園の循環型農業。コウノトリの飛来はまさに彼らの地道な活動の追い風と素晴らしき兆しに見えた。
(取材:川島沙織)
金ちゃん農園
【所在地】滋賀県高島市今津町浜分698番地
【お問合せ】milk.rice.farm@nike.eonet.ne.jp
080−6122−4736(代)
※作業により電話に出られない場合があります
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