たかしまを彩る人 color.23 Studio Caliente(スタジオカリエンテ)代表・堀井茜さん
「サルサを通じて、アップデートし続けている感覚です。」
そう話すのは、ダンススタジオの「Studio Caliente(スタジオ カリエンテ)」代表・堀井茜さん(高島市今津町)。
スタジオは、日本サルサ協会認定サルサダンス指導員の資格を持つ堀井夫妻が経営。キッズからシニアまで幅広く指導している。
レッスンは、サルサダンスをはじめヨガ、ラテンエクササイズ、エアシルクヨガなどがあり、身体を動かしたい方から本格的に学びたい方まで対応。
「キレイになるヨガ」クラスでは、深い呼吸と優しい動きで血流を良くして、身体の中からキレイを目指す。
「キッズサルサ」クラス。ストレッチから始めて、ステップなど基礎からコンペなどの舞台に向けての練習などを行っている。
保護者からも好評で、子どもが楽しんで通っていることや、夜間や週末のレッスンをメインに設けてあるので、送迎しやすいことなど、練習風景に目を細めながら教えてくれた。
情熱的な表現で知られるサルサダンス。キューバの伝統的音楽「ソン」をはじめ、地中海周辺の様々なジャンルの音楽が取り込まれ発展した音楽「サルサ」に合わせて踊る。
ダンスのスタイルには、大きく分けて3つ。
LAスタイル、NYスタイル、キューバンスタイルがあり、生まれたエリアによって色濃く影響を受けた音楽や、ステップを踏むときのアクセントに違いがあるなど、それぞれの魅力を楽しめる。
自身もダンサーとして磨きをかけながら、夫のウィルソンさんと競技会へ出場するなど活動している。
茜さんは、2018年に「日本ラテンダンスコンペティション・プロフェッショナル部門」にて優勝。同年に「Japan cup」で準優勝を収め、翌年の2019年、2020年と連続優勝した実力者。
「サルサに出会ったのは2005年。上の子が3歳のときに、習いごとをさせたいと探していたところ、サルサの師匠でもある友人のスタジオへ見学したのがきっかけです。」
当時は、プライベートに変化があり、気分転換を必要とした時期だった。
ラテンの陽気なリズムは、言葉の壁を越えて、心を躍らせ元気づけてくれたと振り返る。
「サルサの魅力は、踊っていると華やかな気分にさせてくれること。ペアや一人でもでき、競技種目も多い。学び、目標に向かって練習していくことで生活にハリが生まれたり、刺激にもなります。」
茜さんは、仕事帰りにレッスンに通い、研鑽を積んだ。その後、結婚を機にそれまで住んでいた京都から地元高島へ戻り、2016年にスタジオを開業。
指導員資格を取得したことで、自身の活動の幅も広がったと話す茜さん。
指導員の資格は、ダンスに必要な能力だけではなく、歴史や音楽への理解、指導力なども求めらる。色々な種類のサルサがあり、全般を習うため、県外の教室へ通ったという。
「なにより、一番苦労したのは言語。教本はスペイン語表記なので内容を覚えるまでが大変でした。」と振り返る。
親しむことから一歩先へと進んでいくうちに、より深く楽しめるようになった。
彼女が受け持つキッズクラスの受講生もさまざま。ダンスが好きなことと、社交的な性格は必ずしもイコールではないと茜さん。
楽しみながら練習を重ねていくうちに、表現力が増す子もいれば、普段とのスイッチを切り替えて、秘めていた豊かな感情を露わにする子も。
初舞台で、緊張という感情に生まれて初めて向き合う子や、表現者としての顔つきになる横顔を見るとき、彼らの成長を感じることができ、指導者冥利に尽きるという。
NPO日本ラテン文化振興協会主催の西日本最大のサルサ・フェス「サルサ・カンデーラ」にも出場の中学生グループと去年新しくできた小学生チーム。
日本では、沈黙や駘蕩(たいとう)を美徳とする風潮があり、感情を強く表現することになじみが少ない。
だからこそ、サルサダンスを通じて自分を解放する喜びを知ってもらえたら。
日本では、シニア世代が多く、全国的に見ても子どもの競技人口は少ないのが現状だという。
そのため、高島から素晴らしいダンサーが生まれることも不思議ではない、と茜さんは語る。
「今後は高島で、もっとサルサを広め、高島の子どもが、楽しめることや表現することに出会い、その力を養うことをサポートしていきたいです。」
国際大会に準ずる審査基準で有名な「ジャパンラテンオープン2023」で準優勝した「salsa de coco(サルサ・デ・ココ)」の中学生チーム。世界チャンピオンのAlmendra & Richieペアと記念撮影。
コンペは9月、10月、11月とイベントも活発な時期となり、地元の発表会では大人のクラスも子どものクラスも出場。12月に入れば、基礎練習に立ち返る日々を過ごし、翌年の発表会を迎える。そうやって目標となるイベントを、彼らは励みにしながら練習をしているという。
サルサダンスの原型は、遡ることスペインによる植民地時代。 南米にやって来た西アフリカの人たちによって作られたものだといわれている。
奴隷として働き、抑圧を受けた彼らはダンスを許された休みの日に踊った。アイデンティティーを失わぬよう、そして心を解き放つために。
サルサは、スペイン語で「ソース」を意味する。ソースは、いろいろな素材とスパイスが混ざり合ってできることからだという。
その土地に、その時代に生きた人々の多様な文化を融合させてきたサルサ。
かつて、仄暗い時代を灯すものとして伝えられたのち、サルサに魅了された人々によって継がれて発展し、永らく経った今。
〈心は誰にも縛られやしないのだよ〉と。
「受講生の中には、男の子も。小さい頃から通ってくださっています。普段はもの静かな彼ですが、楽しんでいるようで嬉しいです。」と、顔を綻ばせる。
踊ることが、楽しい。
表現できることが、嬉しい。
そんな純度の高い喜びを感じられる場を。
(取材・川島沙織)
サルサ用のシューズを履いて練習。
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