たかしまを彩る人 color.22 有限会社とも栄菓舗 4代目若女将 西沢有莉(にしざわゆり)さん
四季の移ろいに寄り添い、繊細な技巧や細工によって生み出される和菓子。
大切なものは引継ぎ、和菓子の世界に新たな風を起こしながら挑戦を続ける女性がいる。
創業1932年、古くから地元で愛される和菓子店「とも栄菓舗」(高島市安曇川町)の4代目若女将で、和菓子職人の西沢有莉(にしざわゆり)さん。
同じく和菓子職人で、4代目・勝仁さんと夫婦二人で、若い世代や海外へも、和菓子の魅力を伝えようと2017年に新ブランド「NANASAN(ナナサン)」をスタート。
「革新的な試みを7、伝統的な技法3を指標にした商品作りと、安曇川固有の信仰〈七シコブチ〉のご加護を地元特産・アドベリーを育む安曇川の三角州にも、との願いを込め名付けました。」
夫妻は、アドベリーを使った琥珀糖のお菓子「MIO(ミオ)」の開発・販売を皮切りに〈カジュアルに楽しめる和菓子づくり〉に勤しんでいる。
「琥珀糖は昔からあったもので。そこに進化をさせたものがMIOです。」
商品は「NANASAN」の代表作として夫婦で話し合い、デザイナーとも綿密に打ち合わせを重ねて、販売まで2年を要したという。
満を持して販売となった2019年2月、コロナによる自粛ムードによって催事もできない中、真っ暗闇の中での船出となったと振り返る。
どうしたものかと思った矢先の5月。
県外のある大学生がSNSで紹介したことで話題になると、スイーツジャーナリストやバイヤーの目にも留まるようになり、TVや雑誌などでお取り寄せ銘菓として取り上げられるように。
県外から若い世代による取り寄せが増え、主力商品として店を大きく支えるものとなった。
「それを機に、東京での催事も増えましたし、これまで来店したことが無かった地元の若い子が来てくださるようになりました。」と有莉さん。
西沢夫妻が味も伝統も織り込んで、生み出した<食べる宝石>とも称されるMIO(10個入り・1,620円/税込)。シャリっとした外側に、中身のトロリとした食感の琥珀糖と、モチっとしたアドベリーゼリーを閉じ込めて3つの食感を楽しめる仕上がりに。
ダイヤモンドのような多面体のあしらいは、琥珀糖の食感を際立てている。発売当初はまだ琥珀糖の特性を味に落とし込む作り方はメジャーではなかった。
ある若者は「親に」と手に取り、
またある年配者は「孫に」と手を伸ばす。
誰かを想い、手にしてくれる。
これは、伝統の製法を大切に味に妥協せず新たな和菓子作りに挑む夫妻にとって、職人冥利に尽きる何よりの反響だった。
餡ペースト&カステラのラスクで、ディップしながら食べる「SOU(ソウ)」(918円/税込)。餡ペーストの種類はアドベリー&レアチーズ、黒胡麻&レアチーズ、抹茶&レアチーズがある。繊細な表現を得意とする「とも栄」が使う砂糖は10種類以上。商品別に使用するザルも網目の細かさにこだわった特注品なのだそう。
通常業務と並行して行う商品開発は、試作しては形状と味、微細で地道な調整作業が多い。
「夫は閃き型で。柔軟な発想で提案してきます。それには課題が多いこともありますが、二人で落とし込み、形にしていくのがとても楽しいです。」と、職人として腕が鳴る時間を重ねている。
もとは栄養士を目指していた有莉さん。ある日、和菓子の魅力に強く引き付けられて両親を説得し短大卒業後に製菓学校へ入学。
「その後、東京の和菓子店で修業を積む中で、選・和菓子職にも挑戦しました。」
選・和菓子職とは、研鑽を積んだ職人の技術を審査、認定する制度で、全国和菓子協会が主催している。
2007年に優秀和菓子食部門が開設されて以来、2度の厳しい審査を経て、挑戦した職人のおよそ15%しか認定されない狭き門となっている。
当時独身だった有莉さんは、〈これは今しかできない〉とチャレンジ。3回目の受験となった2013年に優秀和菓子職部門で認定された。
センスや技術だけでなく、体力勝負でもある和菓子業界。若き職人は、寝る間を惜しんで切磋琢磨する。
東京での修行時代は、毎月の品評会の準備や勉強会、作品づくりの毎日と。がむしゃらに、楽しくてしようがない日々だったと振り返る。
中秋の名月など、自宅でも季節の和菓子を作り、団欒を楽しむという有莉さん。地元・千葉県との文化の違いを発見したりしながら、広い視点でこれからの制作に意欲を見せる。
商品開発が大詰めになると、自宅に持ち帰って試食することが増え、繰り返すうちに煮詰まることも。
そんな時は、子ども達に試食の応援を頼むのだとか。真っ直ぐで忖度のない感想が、二人の思い描く着地点の答え合わせにもなるという。
今後は、新しいタイプの抹茶ようかん「ベイクドようかん」のようにビーガン対応で、アレルギーを持つ人も楽しめる商品も増やしていきたいと語った。
こちらは「ベイクドようかん湖々菓楽(ここから)」シリーズの「ふなチー」4,212円(税込)。魚治さん(高島市マキノ町海津)の鮒寿しとのコラボされるまでのお話と、濃厚なチーズ感は鮒寿司から生まれていると聞き、筆者は興味が湧いて自宅用に購入。
「鮒寿司の飯(いい)」を取り入れた商品や加工してあるお菓子は数多くあれど、鮒寿司の「身」が入った菓子は筆者は初めてである。職人から職人へ託された鮒寿司は、滋賀県の伝統食品を担う作り手の想いを損なうことなく、リスペクトを感じる。その緻密なバランスと足し引きのセンスを味わえる一品だ。お茶請けとしてだけではなく、ワインや日本酒とも合う。
「仕事柄、色々と食べてきましたが、夫が作る餡子が一番好きです。」と有莉さん。
とも栄の餡子は、高島の美味しい水を使って作られるため、あっさりしつつも小豆本来の旨みと甘さを楽しめるという。
店の「いつもの味」は、たゆまぬ日々の中で生み出される美味しさ。
そして、対極するエッセンスを融合させて新たなスタンダードへ。
世代を超えて愛され、人から人へと繋いでくれるのは、継往開来の精神を宿す二人の和菓子かもしれない。
(取材・川島沙織)
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