たかしまを彩る人 color.19 ジビエレザーisato 伊東朋子さん
害獣と呼ばれ、息絶えた彼らの物語と、その続きを紡ごうとしている女性がいる。
滋賀県内で駆除された鹿や猪の皮を使って、財布やポーチ、キーリングなどの革小物を制作する「ジビエレザー isato(いさと)」(高島市今津町)の伊東朋子さんを訪ねた。
3年前の2020年、朋子さんは夫婦で働き方と生き方をシフトし、市外から高島へ移住した。彼女の自宅兼工房は、琵琶湖を見下ろす山の静かな住宅地にある。
屋号のisatoは、i(私)とsato(里山)のつながりを感じてほしいという想いから名付けられた。
名刺入れは、魔除けや縁起の良いとされる鹿の角の一部をワンポイントにしたものも。
制作は、生々しさが残る命の軌跡を受け止め、粛々と手入れをするところから始まる。
猟師から廃棄予定の生毛皮を譲り受けると、まずは洗浄。下処理を済ませてなめし専門の加工場へ送る。
「ラセッテーと呼ばれるなめし加工をする業者にお願いしています。ミモザアカシアの樹皮が主成分で、小さいお子さんが手に取っても安心です。環境保全の視点からも自然に優しい加工法です。」
強度もありつつ、触り心地良くなめされた革。
加工場から届けられた革の質感を見てデザインを考えるので、一つとして同じものはない。
性別や皮のきめ、怪我の跡。骨格や体格が作り出す曲線は個体ごとに個性が光る。
弾かず、取りこぼさず。ひとつひとつと対話を重ねて。
鹿の革は、しっとりなめらかな質感に対し、猪革は山や森を逞しく生き抜いた証が伝わる堅牢な質感が特徴となっている。
頭数調整のために捕まえられても、狩猟人口の減少や高齢化も手伝って、食肉として利用されることは少なく、皮に至っては、なおさら少ないのが現状という。
里山に人が減れば、手入れも減る。次第に山との境界も曖昧となってくるのだから、餌を求めて山から降りてくるのも当然のことだった。
彼らがどこで生き、やって来たのかが分かるようにタグに記されている。
「ましかくバネ口金ポーチシリーズ」の用途別3サイズ。おすすめの使い方は、S(5cm角)はリングケース、M(8cm角)は小銭入れや鍵、常備薬入れなどに。L(12cm角)はコスメ用品やケーブル収納にも○
角形のトレーは、キャッシュトレーに使うとおしゃれ。
朋子さんは、猟に同行するため猟師と一緒に県内の山へ入ることものだという。その時は山をひたすらに歩き、さまざまな痕跡を手がかりにして罠を仕掛ける。
草のへこみなどの山の景色に溶け込む微細なものから、体表についているダニなどの寄生虫や汚れを落とすための泥浴び場の「ヌタ場」など。それらを見落とさないように歩いていく。
そこは生と死が同居する循環の場。
山の生き物たちの息遣い。
そこに棲むモノと、
住まざる者の心理戦。
狩られた獣たちは、埋められたり焼かれたりするのがほとんどだとか。
「本来は食べるために命をいただくのだから、何もせずに捨てるのは申し訳ない。」と、猟師でもある父親の言葉が朋子さんの胸に残っているという。
鹿や猪を貴重なたんぱく源として分け合って食べていたのは昔のこと。
エシカルや持続可能といった言葉と時流が生まれ、消費で終わるモノづくりの時代の終焉も間近かもしれない。
鹿革のサコッシュ。
丸型トレー。アクセサリーなど小物をちょい置きをしたい時に重宝しそう。
自身も里山に暮らす生き物。いただいた命を自分なりに、活かしきりたい。使うものはいつか自然に還すものなので、いつでも自然に還すことができる生き方をしたいと語った。
高島に暮らし始めて3年目。農業にも関心が生まれ、耕作放棄地の一角を借りた。
自分たちに必要な量を賄おうと初めて野菜作りを始めて試行錯誤していたある日。
譲り受けた命のかけらを畑に埋めてみたものの、なかなか土に還らないことがあった。
山にいる動物が屍をつついたりすることや、微生物たちが腐敗させていくこと。
それらが、横たわる彼らが土へ還るよう促していたのだと腑に落ちた出来事だった。
そうやって自然界の厳しさや循環を身近に感じるからこそ。
動物たちのしなやかさも知り、学ぶ日々。
「獣害対策はいつか終わる施策。その時はジビエレザーの制作も終えます。」と話す彼女の柔らかな声色には、とても潔いものがあった。
山で駆け回っていた彼らの躍動を受け取り、新たな物語を思い描く。
「ジビエレザーの作品をきっかけに、里山のこれからに興味を持ってもらえたら。」
いつか、里山のバランスが整い、豊かな循環となるように。
そんな未来に想いを馳せながら。それは、この物語の続きのずっと先かもしれない。
〈おばあちゃんは、こんな生き方をしていたよ〉と、いつか孫たちに穏やかに語れる日を楽しみにしているんです。そんなふうに自然に沿う暮らしをしていきたい、とー…。
(取材・撮影/川島沙織)
ジビエレザー isato(いさと)
伊東 朋子(いとう ともこ)
※受注生産となっています。在庫状況や制作については下記リンク先よりご確認ください。
※お問い合わせの返信には、お時間をいただく場合があります。
通販サイト https://isato.theshop.jp/
Instagram https://www.instagram.com/isato.gibier/
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