たかしまを彩る人 color.05 新旭電子工業株式会社 代表取締役社長 大島節子氏
白物家電、デジタル家電、PC周辺機器、産業用機器、車載電子機器、自販機。
ありとあらゆるところで私たちが当たり前に享受している便利な暮らし。
それを見えないところで支えているのが彼らの仕事である。
これらの電子機器の機器や性能を決定づけるのがハードウェアやソフトウェアだとすると、性能を活かして製品として正しく再現するため重要な役割を持つのがプリント配線板。
これが心臓部と例えられる所以だ。
「幼稚園の先生に憧れて保育士の資格を取ろうと思って短大へ進学したのですが、父から会社を手伝って欲しいと強く言われ、経理についても学びました。」
1982年、短大を卒業した彼女は地元岡山県倉敷市から転居し入社。 社員の使う車より良いものは乗るべからず、と率先して質素倹約でいることなど、身内には厳しく律することがモットーの先代社長。娘だからと甘やかされることなく地道にキャリアを積むこととなる。
総務部所属で人事、経理を担当し結婚。3人の子育てをしながら一社員として忙しい日々を送った。
「当初、父は一代で終わるつもりだったようで。我が子に継がせることも考えてはいなかったようです。」
業績を上げ地域に根ざした会社へ成長すると、歳を重ねた先代が「死ぬ時は工場で」と会社への深い愛を吐露する頃、彼女に転機は訪れた。
2013年、後継者として代表取締役の内示を受ける。
「スキルアップのために後継 者育成研修は受けていたものの、それが現実のものとなると、もちろん戸惑いもありました。けれど、与えられたチャンスなのだと奮い立った日でもあります。奇しくも私の誕生日ということもあり、鮮烈な日となりました。」と振り返る。
これまでの厳しさから一変、退けば潔いもので彼女が就任すると先代から一切口を挟まれることはなかったという。
「ある豪雪の年には駅を降りた社員に声をかけ、会社の送迎に往復したことも。社員の顔は全て分かります。」と大島氏。
この時すでに従業員300名規模になる企業の社長である。企業成長の一助として仲間同士、仕事をしてきた彼女なら容易いことだった。
「弊社では、挨拶は特に私自身も含めて徹底を心がけています。」
大きな会社づくりよりも信頼のある会社づくりを目指し、仕事に対する姿勢や人間の質の向上が製品のクオリティにも反映されると考える 大島氏。
日頃のコミュニケーション無くしてはこれまでの事業の躍進は語れず、従業員の人材育成にも力を入れている。
会社では独自のマイスター制度により技術力を養い、熟練者を養成、現場の課題や改善点を洗い出して提案する改善提案制度を設けて年に一回表彰を行なっている。
また、総務では電話対応コンクールに出場したりと、所属する課それぞれ特色を生かしたチャレンジ制度も設けている。 例年春には社内の結束力を強め親睦を深めることを目的に、福利厚生活動として各課対抗ドッジボール大会などのレクレーションを行ったり、家族参観日を設けて工場見学なども開催。
マニュアル通りのスキルを身につけた望ましい人材を育成することよりも、「個々の能力を向上させ、自発的な行動や発見する力を芽吹かせること」に余念が無い。
数時間、見学させていただくと、効率的に工夫ができるところは惜しまず、より良くしようとする姿勢があちこちに見られる。
名刺は書き換えや補充がすぐにできるよう社内で印刷したり、社内の廊下は、従業員は移動ついでにモップがけ掃除をする。 光る廊下を歩くと、なるほど要所要所にモップが掛かっているのだ。
掃除が行き届いている廊下。女性従業員によると、トイレもきれいなので嬉しいとのこと。見えないところへの気配りは、それぞれに気持ち良く行われているようだ。
「訪問先のおもてなしのお茶が美味しいと、喉を潤す側も嬉しいので。ぜひ温かいうちにどうぞ。」とこだわりの茶葉を使ったお茶を振る舞っていただく。
どの社員が淹れても美味しいものをお出しできるように、という大島氏の心配りだそう。
このように一見すると些細なことに込められた彼女の想いには、お客のニーズを大切にし、いつ何時もクオリティを維持するという姿勢を映し出す。
「新旭電子工業グループとして500名の従業員がおりまして、つまりその方のご家族も含めると、私にはおよそ2,000人の生活がかかっている。この責任を忘れることなく、地域住民でもある従業員と対話をし、風通し良くあることが、仕事の質の向上にも繋がっていると信じています。」と大島氏。
かつて市内に学童保育がない頃、地元を離れて子育てしながら働くことの厳しさを痛感。
近所に預け続けることに心苦しさも手伝って、学区の学童保育の設立メンバーとして尽力したことも。
我が子を見守ってもらう側から見守る側へシフトした現在は、新旭やマキノ地区の中学校へのビジネスマナー講師の活動も依頼を受けて行なっている。
また、女性が活躍できるよう、管理職への登用や産休、育休制度も。これまでの自身の経験を元に、どうすれば個々のパフォーマンスをあげていけるか、地道な努力、見えないところへの気配りを惜しまない。
「もう何度、父と顔が似てると声をかけられたことか。」と明るく柔和な笑みを見せて、かつてを振り返る。 以前は出先で見知らぬ方から声をかけられることが多かったのだそう。
その度に父親の顔が、この地で踏み締め歩んできた父親の足跡が脳裏に蘇ったことだろう。 高島の地域とともにあるからこそ、と駆け抜けた日々。
父である先代から託され、またいつの日か託すその日まで踏み締め歩んでいく。
会社のエントランスに入って正面すぐにある社是には、
『炎える情熱と素直なこころを持って、人の困難とする仕事、及び技術に敢えて挑戦し、それの解決を喜びとする人達の集まりで、能力主義・人格主義をモットーとし、社会に奉仕する。』
とあった。
玄関を入ると目の前に飛び込んでくる社是。
一筋のしっかり伸びる熱い情熱としなやかさ。大島氏の穏やかにたたえる優しい笑顔には、懐の深さと芯の強さを感じた。
日頃のコミニュケーションと気軽さを大切に。社員に会えば最近はどう?と声掛けは欠かさないようにしていて気さくな会話のやりとりが飛び交う。信頼関係があればこそ。
敷地内で飼っている鯉。ケージには地域の水路に還す前にしっかりと浄水処理したものを使用している。 製造に欠かせない水は、地域の地下水を汲み上げ2度使用したのち、浄水処理を行っている。飼育場所を教えてもらっていたものの、迷ってしまい、偶然出会った従業員の方に声をかけると快く丁寧に案内していただいた。
(取材・川島沙織)
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